第2話 未解決事件
シホちゃんが住んでるのって、第四地区と第五地区の間、だよね?
不意に、シホの頭の中で、アリトラの言葉が響いた。
あそこって、それこそほんと王政時代のその昔、って話だけど、いまみたいな街じゃなかったのよ。大きな倉庫街でね。人気もあまりなかったらしいの。
シホは、背筋に冷たい何かが触れた様な気がした。
だからあそこは、 ある有名な未解決事件の現場になったんですよ。
そう。 通称『ザ・ リッパー』っていう事件。ざっと百年以上前の話だけどね。
リコリーの言葉も蘇る。気付けばシホは走り出していた。
あの倉庫街で、若い女性ばかりが身体をバラバラに切り裂かれた遺体で見つかる事件があったんですよ。被害者は五人。遺体からは内臓の一部が持ち去られていて、それは当時にすれば非常に高度な外科的手法だったから、医師が犯人ではないか、って何人も容疑者はいたんですけど、結局犯人にはたどり着かなかったんです。
目印になる近隣の店がなくなってしまったので、シホはおおよその感覚だけを頼りに自分の店、自分と大切な『家族』が住む家の前まで走った。だが、周囲の景色は変わらなかった。『銀の短剣』があるはずの場所にも、倉庫の列が続いていた。息を切らし、膝に手を付いて前屈みになったシホは、その壁を見上げて、いま自分が置かれている状況の異常さを理解しようとした。アリトラとリコリーの言葉が答えを導くが、そんなはずはない、と出掛かるその答えに蓋をして、冷静に観察しようと試みる。
ふと、その目に街灯が映った。人気のない石畳の道を照らす街灯。薄暗がりを照らすその光景は、角を曲がる前と変わらない、と思った。だが……
「嘘……」
シホはその街灯の作りを見て、ゾッとした。それは『移民街区』で日々見掛ける街灯ではなかった。骨董屋『銀の短剣』で、幾度か扱ったことのある……百年以上前の骨董品の街灯と、形が酷似していた。
通称『ザ・ リッパー』っていう事件。ざっと百年以上前の話だけどね。
アリトラの声が何度も耳の中で響く。冷静になろう、観察し、何が起こったのかを考察しよう、としたが、あまりの異常さに、シホの思考は止まりかけていた。
ここは、百年以上前の『移民街区』……?
物音が背後から聞こえたのは、シホがそう答えを出そうとした時だった。
慌てて振り返ったシホは、そこに奇妙なものを見た。
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