第2話 バターポテトと双子と聖女
いったい、どういう話からそうなったのかは、忘れてしまった。
今日、シホがこの既知の双子と出会ったのは、全くの偶然だった。シホは自分の店……『銀の短剣』という骨董店の買い付けに、この王城前公園を訪れた。手入れのなされた大きな広場は、 元々このフィン国を統治していた王家の庭だという。確かに、それを物語る石像や意匠が、所々に見受けられる。が、それはあくまで過去のものである。いまは公園として整備され、民主国の観光地になっていた。
その一角では毎日のようにフリーマーケットが開かれている。一定の賑わいを常に見せるこのフリーマーケットに集う人々の商品は、シホの店にとってよい仕入れ先となっていた。骨董の品だけではなく、魔法に関する書物、書類などなど。普段は『兄』リディア・クレイに任せることが多いが、シホも自らの眼を磨くため、時にはこうして買い出しに出向く。
フリーマーケットでは参加者が草で編んだ敷物を広げ、その上に品物を並べている。ただ無造作に値札と共に並べている者もいれば、凝った簡易棚や布を用意して、ひとつずつ丁寧に陳列している者もいる。中には手作りのアクセサリーを売っている区画などもあり、そこには人が多く集まっていた。骨董の品を定めに来たはずが、シホもついついそちらに足を運んでしまい、 美しいアクセサリーを眺めながら、様々想いを巡らせていると、アリトラとリコリーの双子に呼び止められたのだった。
バターポテトを食べよー、というアリトラと、一緒にいかがですか、というリコリーを、店の仕入れ中ですから、と断る程、切羽詰まった仕入れではない。何よりこの双子のことが大好きなシホは、二つ返事で同意した。
そうだ。そうして露店でバターポテトを買い、このベンチに三人並んで座ったのだ。何故か双子はベンチの両端に座り、シホを真ん中に促した。二人が並んで座らないことを、シホは少しだけ不思議に思ったが、笑顔の二人を見ていると、そうすることが二人にとって、自分たち以外の、気を許した相手に対する敬愛の表現なのかもしれない、と思えて、シホはなんだか照れ臭くなり、うつむき加減でほくそ笑みながら、ベンチの真ん中に座った。
そうして、初めのうちはバターポテトの味について双子が話し、シホもうんうん、と頷きながらポテトを味わっていた。そのうちに話題はこの王城前公園に移り、その成り立ちについて、リコリーがシホに話し出したはずだった。噛んで含めるように丁寧な説明が終わりかけた頃、そういえば、とその説明に半ば飽きた様子のアリトラが言ったのが始まりだった。
アリトラが話し始めたのは、かつて王政国家であった頃の、この庭園を舞台にした、所謂『怪談』であった。似たような話は、シホが生まれた大陸にもあり、何となくだが、シホにも聞いた覚えがあった。つまり、話の大筋はわかっていたわけだが、話上手のアリトラの語り口と、そもそもそうした話が苦手なシホの性格が手伝って、ついつい悲鳴を上げるまでに至ってしまったのだ。
「それに、いまの話はそれなりに有名じゃない? リコリーも知ってるでしょ?」
「……知ってるけど、聞くのは避けて来たんだよ……」
シホと同じく、やはり怪談は苦手らしいリコリーが、どこか恥ずかしげに顔を伏せてバターポテトを頬張った。一口食べると、途端に表情が明るくなる。
「あー、やっぱり美味しいね、アリトラ」
「ねー。やっぱり美味しいよね、リコリー」
……なんというか、これが双子特有の距離感なのだろうか。 二人は美味しいものが好きで、それを一緒に食べればすぐさま幸せを分かち合える。孤児であり、親きょうだいの存在すらわからないシホには、羨ましくもあり、微笑ましい光景だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます