移民街区怪異譚

アリトラの怪談

第1話 話上手の怪談は怖い

 緩く波打つ金色の髪が、小刻みに震えていることが自分でもわかる。とび色の瞳は大きく見開き、乾いて痛い。それでも、右隣に座る青髪紅瞳の少女が放つ次の言葉がもたらす衝撃に耐える為、その一挙手一投足を見逃さないように構える。次の一言では、そういう言葉が出てくるはずだった。、そうだ。それはわかっていた。

 少女の紅瞳が、こちらを射抜いた。強い意志を宿して輝いているように見える彼女の瞳の紅は、実際、自分より二、三歳年上の彼女に、より一層大人びた印象を与えている。

 その瞳を縁取る形のいい瞼が、 かっ、と見開かれた。


「お前だあぁ!」

「きゃあぁぁぁ!」


 耐えきれなかった。

 わかっていた。そのはずなのに、そのオチに悲鳴を上げてしまった。


「し、し、シホさん、だ、大丈夫ですか?」

「あ、えと、はい、ダイジョブデス……」


 動揺を抑えきれず、シホ・リリシアは片言のように平坦な声で応じた。一方、声を掛けてくれた相手も、シホと同じ様に動揺を隠しきれない様子で、辛うじて悲鳴は上げなかった、というていだった。

 シホを案じた相手は、紅瞳の少女ではない。その少女とは反対の、シホの左隣に並んで座る少年だ。年齢は少女と同じ。二人は兄妹……双子だと聞いたが、その容姿は少しも似ていない。少年の方はきれいに整えられた黒髪に、鋭すぎるほど鋭い目付きが印象の殆んどになっている。よく見れば、青く美しい瞳で、彼の心根の美しさをそのまま宿しているのだが、如何せんその顔立ちは怖い。 知り合ってそれなりの時間を共に過ごしたのでもう慣れたが、そんな彼が顔には似合わない声音と仕草でシホを案じ、同じく恐怖に身を震わせている。


「ううぅ……あ、アリトラ……程々にしてあげてぇ……シホさんも苦手だっていうし……」

「え、いまの話って、そんなに怖かった?」


 そんなことを言いながら、青髪紅瞳の少女、アリトラ・セルバドスは、悪戯っぽく笑って片目を閉じて見せた。そして、手にした紙の包みを見つめる。そこには小ぶりなじゃがいもとたっぷりのバターが包まれていて、バターは蒸されて湯気を立てるじゃがいもの上で、いままさに溶け、 ほくほくとした芋と絡み合い、味わいを深めている。その様子をアリトラは暫く嬉しそうに見つめ、漸くじゃがいもを口に運んだ。 頬張った瞬間、至福の表情を見せる。

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