第4話 食いしん坊な聖女さま
「いや、あの、買い出しから帰ってきたら、美味しそうな匂いがするなあ、って思って。で、キッチンの中を見たら、リディアさんとクラウスさんが何か作ってる。わたし、買ったものを置かないいけないし、でも何となく入り辛いなあって……」
「で、入口で腹を鳴らしていたわけか」
「お、おお、おなかなんて鳴らしてません!」
「……ですが、少なくとも鼻はひくつかせていらっしゃいましたね」
「そ、そそ、そんなこと……」
そこで、ぐー、と腹が鳴る。シホ・リリシアが顔を真っ赤にして下を向く気配が伝わる。クラウスは、思いがけず破顔した。時刻は夕方少し前。確かに小腹は減る時間ではある。
「いいから食べろ。……美味いと思うぞ」
「ええ。死神にしては美味いものを作りました」
「お前、この間のホットケーキも食べていただろう」
「あれもまあまあだったな」
「お前……」
「い、いただきます!」
止めどない応酬になりそうだったが、そこでシホがホットサンドにかぶりついたことで、死神との会話は決着を付けずに済んだ。
「……んー!」
「……食べてから話せ」
「んー!……んぐ……お、美味しいです!」
シホが屈託なく笑う。その笑顔は不思議なことに、クラウスにもその目で見ているかのように、いま現在のシホの姿として脳裏に像を結ぶ。陽光のような緩く並みを打った金色の髪を揺らしながら、ホットサンドにかぶりつく姿は、クラウスがシホにもたらしたかった『平和』『平安』に他ならず、クラウスはもう何度目かになる、この国にたどり着いたことに対する感謝を抱いた。
「シホ様、無糖の紅茶を淹れました。如何ですか?」
微笑みながら、シホのカップに紅茶を注ぐ。行きつけの紅茶店『鳥籠の花』の紅茶が、優しい香りを漂わせる。
新しい料理と、いつものお茶と。
今日は、少し食いしん坊な、お茶の時間だ。
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