第6話 四人の仲間

 竪琴の音が止んだ。シホはその場に居合わせた誰よりも早く、手が痛くなるほど拍手をした。


「すごい、すごいです! シエロさん、すごい!」

「……え、えっと、そんなことは……」

「これくらいしか、なんて言ったらだめです。すごいことです!」


 シホは心からの感動を言葉に乗せた。


「そうだな。少なくとも、俺はシエロの演奏を楽しみにしてる」

「私もだ」

「……ええ」

「みんな!」


 薄々わかってはいたが、やはりクラウスとリディアが連れてきた三人は、シエロの旅仲間だったようだ。シホの跳び跳ねるような感動に、賛同する言葉と笑みをくれる。


「いい演奏だったねえ。思わず聞き惚れたよ」


 そこに入ってきたのはフィッフスだった。手には大きなトレイを持っている。


「少し蒸してみたんだけどね。時間が早いから、まだ柔らかすぎるかも知れないけど」


 そう言って、トレイを商談テーブルに置いた。トレイの上には人数分の小さな器があり、黄色味がかったものが入っている。一瞥して、液体と個体の間くらいの、柔らかさだろう。


「すげー! プリンだ、懐かしー!」

「おや、知ってるのかい?」

「俺が元いたところでは、コンビニとかで売ってたんすよ。で、よく部活の帰りに買って食べてた」


 幾つかシホにはわからない言葉を交えながら、シドという名の男性が話した。きっと、シエロたちの生まれた土地の言葉なのだろう。


「プリン……?」

「そうそう。卵から作るんだよ」

「卵……」

「あ、ファラ……」

「今日は偶々たまたま、卵をたくさん貰ったからねえ。でもお客さんが多い日でよかったよ」

「では、お茶を淹れてきます」

「ああ、クラウス、お願いね。無糖でいいよ」

「畏まりました」

「……バニラエッセンスか。いい香りだ」

「だろう? お前も好きだろうと思ってね。いくら鶏卵でも、そんなにたくさん、いっぺんには食べないからねえ。プリンならいいかな、とねえ」

「鶏卵……いや、わたしには関係がにゃ……」

「あ、噛んだ」

「ファラ……」

「ん? そちらの女の子さんは、卵が苦手だったかね?」

「ごめんなさい……その、ファラは野菜しか食べられなくて……」

「あ、じゃあファラのぶんは俺が食べるわ」「まてまて、私が貰う」


 オロオロとした様子で謝るシエロに、ファラの分のプリンを取り合うシドとレミ。なかなかな大騒ぎになって、シエロが二人をなだめつつ、またフィッフスに謝る。その隣で、ファラは涼しい顔。だが、どこか動揺しているようでもあり、プリンからは気持ち距離を置いていた。

 そんな四人の様子を見ながら、シホは思わず吹き出した。何というか、この四人なら、どんなに困難な旅路も、笑って歩けるのではないか。そんな風に思ったからだ。


「それじゃあ皆さん」


 シホはやや大きめの声で言った。プリンを取り合う二人も、シホの方を向く。


「お茶にしましょう!」


 今日は賑やかな、お茶の時間だ。



ー聖女とエッグタルトと旅行者たちー END



お借りしたキャラの出典:


『ソラに奏でる君のオト』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895326211


 作者様: かみたか さち 様

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