第6話 力を解き放て

「で、できそうか、って……」

「わたしはたぶんできるけど、それってなんの意味があるの? サロメの力は夢魔に対するものであって、夢の中かどうかわからないこの場所で、しかも夢魔でもないシホさんに向けるって……」

『まあ……実験、だな。』

「そんなところだねえ。大丈夫。やってみれば、あたしたちが考えてることがわかるよ。」


 そう言って、並びのいい歯を剥き出してにっ、と笑うフィッフスの笑顔に悪意は欠片もない。


「……じゃあ、やってみます。」

「えっ! シホさん、大丈夫なの!?」

「えっと、たぶん。フィッフスさんが知りたいと考えていることは、わたしも知りたいことですし。」


 偽りのない言葉だった。そもそもフィッフスの誘いに従って、共に旅に出たのも、発端はそうした気持ちからだった。

 百振りの力ある魔剣が目覚めようとしている。それを再び封じる。その為に、神託はもたらされ、神はシホの名を告げた。だが、シホは本当に、何一つとして、魔剣について、そして魔剣を生んだ時代について、知らなかった。

 このまま対峙することが、果たして正しいことなのか。葛藤の末、シホが見出だしたのは、自ら学び、自ら考える力を身に付ける道だった。

 シホは鞄と皿をフィッフスに預け、腰に下げた短剣を抜いた。


「えと、アイラさんは、戦士でいらっしゃるんですよね……?」

「せ、戦士……まあ、そうか。うん、そうだよね。確かに戦っているから、そういう言い方もあるよね。」

「優しくお願いします……」


 そういう言い方が正しいのかはわからなかったが、シホは魔剣の扱いについて、未だに自信がない。継承してから、すでに二年近い時間が流れ、大きな戦いも経験しているが、それでもそれは自信にはならなかった。アイラの日々の戦い、その内容まではわからないが、少なくとも、夢魔という対象を持ち、戦う戦士であるアイラとサロメの力を、まともに受け止められる自信は、いまのシホにはなかった。


「う、うん。できるよね、サロメ。」

『勿論だ。だが、あまり手加減し過ぎても意味がない。』

「どういうことよ……うー、緊張するー。」


 そんな風に話すアイラとサロメの声を背中に聞きながら、シホは二人と距離を取った。


「……じゃあ、いいかな。やってみるよ?」

「お願いします……」


 シホは魔剣ルミエルを胸の前に伸ばした両手の先で倒し、刃の腹を晒す形で構えた。静かに、意識を集中する。一方、視線の先では、フィッフスが壁際に下がり、アイラが腰の魔器サロメの鞘に左手をかけた。右の手で剣の柄を握る。そして、ゆっくりと抜いた。美しい銀色の光が、シホの目に眩しく映った。


「行くよ!」


 掛け声一閃、アイラがサロメを上段に構えて床を蹴った。強い脚力で、瞬きする間にアイラの姿はシホの眼前に迫った。その瞬間、サロメの刀身の輝きが増す。いや、篝火かがりびの明かりを反射して輝いていた先ほどまでとはまるで違う。


「力を解き放て、サロメ!」

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