第5話 魔女と魔剣の提案

「え、じゃあここって、誰かの夢の中じゃあないの?」

『非常に難しい。そうであるとも言えるが、そうでないとも言えるのかもしれん。不安定で不定形な空間だ。ワシもこういう力の流れは体験したことがない。』

「そうなんだよねえ。不安定だから、長い時間、ここにいることのできないしねえ。」


 フィッフスが腕を組んで息を吐く。その言葉に、思い出したかのように反応したのは、魔器サロメだ。


『おお、そうであった。では、無事再びまみえることができたことであるし、魔女殿が前回話していたこと、試してみるとするか? そのために、聖女殿を連れてきたのだろう?』

「ああ、そうだねえ。でもいいのかい? まさか本当に協力してくれるとは思ってはいなかったんだよ?」

『ワシも同様の興味をそそられたということよ。アイラの今後にも生きるやも知れんしな。』

「へ? わ、わたし?」


 空になった皿を片手に、紙カップの紅茶をすするアイラが、唐突なことにすっとんきょうな声を出す。シホはそのアイラから、梨のパイの皿を受け取りながら、フィッフスが自分を連れてきた理由が、やはりあったのだ、と考えた。しかし、いったい、どんな理由だろうか。魔器に協力を依頼したというフィッフスと、それに応じた喋る魔剣。同じ興味をそそられた、というが、あまり平和的なものには思えなかった。


「シホ、ルミエルは身に付けているね?」


 アイラのように声は上げなかったが、う、とシホは息を詰まらせた。おしりの少し上に当たる硬い物の感触が、途端に重さを増した。

 魔剣ルミエルは、シホが元々住んでいた大陸で、かつて聖女と呼ばれた人から継承した、彼の大陸での魔剣である。彼の大陸には、魔剣と呼ばれる力を持つ剣は百振りあると言われ、ルミエルはその中のひと振りである。

 シホはそのルミエルを、大陸から出る際にも肌身離さず持ち出していた。継承された力あるものを、どうすればいいか、迷いに迷ったが、結局、自分の手元に置くことにしたのだった。


「はい、持っています。」

「なら、その鞄は預かるよ。抜いて、構えな。」

「えっ!?」


 シホはついに大きな声を出してしまった。なぜここで、魔剣を構えなければならないのか。


『アイラもワシを抜け。力を高めるのだ。』

「えっ!?」


 アイラも同様の反応である。この会話の流れから考えるに、フィッフスとサロメが求めているのはただひとつ。


『ワシの力を解き放ち、聖女殿に向けるのだ。』

「シホはルミエルの魔力で防壁を作って受け止める。どうだい、できそうかい?」


 なんだかわからないけれど、とんでもないことになった。

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