第3話 サロメ

「また会えたねえ、サロメ。」

『おお、魔女殿か。こちらではどれほど時間が経った? もう、まみえることもないかと思ったが。』

「三日、というところかねえ。」

『そうか。やはり、ワシらの世界とは時間の進み方が違うのかも知れぬな。』

「そっちではそんなに時間が過ぎていたのかい?」

『軽く一月、というところだ。こちらの時間に、一月という感覚があるのかはわからぬが。』


 大体わかるよ、そりゃあ長い間だったねえ、とフィッフスがしわがれた老人の声に、ごく自然に応じる。シホはそのフィッフスの視線を追った。話す相手に向けられている視線。フィッフスの目は、明らかにアイラに向いている。だが、アイラが話しているわけではないし、アイラもまた、老人と話していたことから考えるに、アイラ自身が老人の声を発しているとも考えづらい。

 シホはアイラの様子をじっくり観察した。そして、ひとつの可能性に気づく。


「フィッフスさん、アイラさんの腰の剣……」

「おや、気づいたかい。」

『魔女殿。この少女が話していた……』

「んー、美味しい!」


 アイラの幸せそのものと言った声が、広い空間に木霊した。


「シホ……さんが作ったんでしょう!? これ、美味しいです! お菓子作り、得意そうですもんね!」

「あ、えと、は、初めて作ったんです、実は……」

「初めて!? すごい!!」

『……全く、緊張感のないやつよの……』

「うっさい! 美味しいものは美味しいんだから、いいでしょう!」


……なんというか、シホはアイラに羨ましさを覚える。これほどテンポのいい受け答えは、シホにはとてもではないができない。


「アイラさん、アイラさんの腰に佩いた剣、ですが……」

「あ、ごめん! 説明してなかったね。フィッフスさんが知ってるから、聞いてるかな、と思ってた!」


 そういうと、アイラは手にしたフォークを梨のパイの皿を持つ手にひとまとめにして握り、空いた片手で腰に帯びた剣を握って、シホに見えやすいように少し前に出した。


「わたしのマキ。サロメっていう、口うるさいじーさん。」

『誰が口うるさいだ、誰が。』


 アイラの腰にある、鞘に納まった剣。鞘の形状から両刃刀とわかる。長さは腕一本分くらいだろうか。嗄れた老人の声は、明らかにその剣から聞こえた。


『お初にお目にかかる、聖女殿。』

「あ、はい、えと、ご丁寧にありがとうございます。」


 シホは深々と頭を下げる。


「では、あなたが、喋る魔剣、ですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る