第6話 プレゼントには雪の結晶の飾りを

 それは、ある方から依頼を受けている品です。忘れて陳列してしまいました。ごめんなさい。お譲りすることはできません。……とは、言わなかった。


「わかりました。お父様へのプレゼントですね。」


 シホはアリトラの手から慎重に黒いナイフを受け取る。


「このサイズのナイフなら、特別綺麗に仕上がる梱包用の箱があるので、それを使いましょう。お父様への贈り物であれば……確か、この国では雪の結晶を模した飾りがいいのでしたよね?」 

「あ、シホちゃん、博識ー。」

「よくご存知で。」

「ありがとうございます!」


 つい先日、フィッフスから教えてもらったばかりのこの国の文化だったのだが、それがこんな形で生きるとは思わなかった。嬉しくなったシホは、笑顔で双子を商談用のテーブルへと促した。


「じゃあお包みしますので、少しお待ちください。良ければお茶を。」

「わーい、ありがとう。あ、これ、梨かな?」

「本当だ、梨ですね。珍しい。」


 テーブルまで歩き、用意した茶器の前に各々腰かけた二人が、お茶請けに用意した梨を見て、不思議そうな声を出した。


「ええ。実は先日、いただきものをしまして。梨って、こちらでは珍しいんですか?」

「いや、梨自体は珍しくはないです。」

「ただ、時期が、ね。」

「時期?」

「そう。いまはこれから暑くなる時期じゃない? あの紅茶屋さんが冷やしたココアを新商品で売り出すくらいの。」

「でも、梨はこれから寒くなる時期のものなんですよ。だから珍しい、と。」


 双子が珍しいという理由を説明してくれたが、梨を貰った経緯が、あのチーズタルトの人絡みなので、シホは笑顔を返すに止めた。シホ自身も、その珍しさに説明をつけることはできない。それに、それよりもっと不思議な出来事と、いまもこうして話をしている。


「お手伝いします。」


 言って近づいて来たクラウスは、眉間に薄い皺を寄せている。


「……よろしいのですか?」


 シホの近くを通って、それとなく店のカウンターに入ったクラウスは、シホとすれ違い様にささやいた。


「確か、そのナイフは、頼まれていたものではありませんでしたか。あの……商人に。」


 クラウスは以前、このナイフを『怪しげなナイフ』と呼んでいた。おそらくクラウスには、目で見えずともこのナイフの何かを感じて識別しているのだろうとシホは理解した。そして同時に、クラウスが何を言おうとしているのかも、理解した。


「ええ。わたしも半信半疑だったのですが、間違いないと思うので、お売りすることにします。」


 カウンターの下からシホが話した梱包用の小箱を取り出したが、そのクラウスの眉間の皺は、先ほどよりも深くなっている。


「彼らは、あのチーズタルトの人のお子さんです。」

「……確かに似ている気配は感じておりましたが……しかし……」

「んー、美味しい! このストレートティーとも合う!」

「本当に美味しい、食べ頃に熟した梨だね。」


 硝子の器から梨をフォークで食べる二人は、アリトラの方は味を純粋に楽しみ、リコリーの方はまだこの時期に梨があることの不思議を追っている顔だった。

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