第4話 チーズタルトの人
そうか、双子なのだろう。
二人の人と話しているはずなのに、まるで一人と話しているように感じるのも、言葉にならないところで、お互いがお互いを補完しあっているからだ。ではその補完は、どんな感覚によって行われているのか、と言えば、説明はできない。瞬く間に取り交わされる、不可知の感性。双子の、双子たるゆえ、なのかもしれない。
棚の前でやり取りをする、似ても似つかぬ、だが深いところで繋がった二人の姿を、紅茶をカップに注ぎながら見たシホは、いいなあ、と率直に思った。
幼い頃の記憶が曖昧な戦災孤児で、養父母に育てられた幼少期を持つシホには、きょうだいと呼べるきょうだいは居なかった。養父母は農夫で、人間的に素晴らしい人たちだったが、子宝には恵まれなかった。自分と同じ様に養子になった子どもたちは幾人かいたが、互いに何となく遠慮があり、きょうだいだと思ったり、まして言い合ったりしたことはない。
「……そうかあ、やっぱりこれになるか。」
「うん。たぶん、これだと思うんだよ。」
双子のリコリーとアリトラが、何やら話がまとまったような口振りになったので、シホは我に返った。そして、二人が前にして立つ陳列棚を見た。
ここ数日は、店の片付けに追われた日々だった。商品の陳列を考えたり、長く仕舞われたままだった品物の虫干しをしたり。そんなな中でフィッフスからお茶の淹れ方を教わったり、自分ひとりでも買い出しに行くようになったり、新しい日常を生きる術を身につけることもしてきた。なかなか充実した日々だったと思う。
そうした、フィンに来てからの数十日の生活の中で、実はちょっとした事件があった。いや、ちょっとした、などと言ったら失礼に当たるかもしれない。何せ、人がひとり、死んでいるのだから。
殺人事件だったらしい。殺されたのはこの近くに住む、この街区では有名な富豪の奥様。横暴にすぎる性格の人で、殺される前日にも、この『銀の短剣』でひと騒動起こして帰って行った。その縁か、それともその事件の、奇妙極まる殺害現場のせいか、事情聴取に来たフィン国の軍人さんが、ちょうどこのテーブルでリディアと殺人事件の謎解きをして帰った、ということがあった。
双子が前にしている陳列棚は、その亡くなった富豪の家から出た骨董の品の幾らかを並べていた。そうした事件があった家から品が出ることは、そう珍しいことではないが、今回は特に念を入れて、買い付けを行っていた。実はその中に、頼まれたものがあったのだ。
あれ、と紅茶を注ぎ終えて、椅子に腰掛けたシホは、奇妙な感覚に捕らわれた。そうだ、あの時、あの事件の謎解きは、シホを含めて四人で行った。リディアと、異国の香りのあるフィン国の軍人さん。それから、あとひとり。殺された富豪の奥様が振り撒いた騒動に巻き込まれた若い商人の男性。シホに焼き菓子を差し入れ、富豪の家から出る商品の買い付けを頼んだ男性。青髪に紅い瞳の……
「チーズタルトの……?」
チーズタルトをくれた、いい人。そこまで思い出した時、シホは
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