第3話 お客様にアイスティー
実は店を閉めて、買い出しに行くところだったのだが、お客さんが来たのであれば話は別だ。リディアにはフィッフスから指定された買い出し食材は伝えてある。それに、元々買い出しは、シホよりリディアやクラウスの方がはるかに得意だ。
「探してる、ってほどでもないんですけど、なにかあればなー、と思うものはあって……うわあ、すごい、いろいろありそう。」
アリトラと呼ばれた青髪の女性がそう話ながら、シホのすぐ後ろについて店に入ってきた。
ここ数日で店の片付けも進み、雑然として開店休業中だった骨董店『銀の短剣』は、
「何かあれば、言ってくださいね。」
「ありがとう。……ねえ、リコリー、どうしようか。」
「うん、僕はだいたい決めていて、そのイメージに近いものがあればいいかな、と思ってさ。」
二人の話し声を背中に聞きながら、シホは店から奥へ入った。
居住スペースにあるキッチンに入ると、クラウスがいる。
「クラウスさん、どうですか?」
「ああ、シホ様、お戻りですか。ああ、なるほど、お客様ですね。……こちらはどうにもダメそうですね。わたしも知識があるわけではないので、はっきりとは分かりませんが。」
キッチンの奥に据えられた大型オーブンの前に屈んだままのクラウスと、そんな会話をしながら、シホは食器棚から来客用のティーカップを二つ用意する。
「生地を作り始める前に確認してよかったです。」
「フィッフス殿が宅内設備の修理業者を頼みに出られていますので、そちらを待つことにしましょう。」
「そうですね。……梨、どうしようかなあ。」
「ちょっと切ってしまいましたからね。」
シホは魔法の力で商品を冷蔵保存している棚から、あらかじめ作りおいたアイスティーの
「あ、ちょっと切り方が薄いけど、お茶請けにお出ししようかな。」
「なるほど。悪くはないと思いますよ。いま切ったばかりですし。」
では、後でお持ちします、とクラウスが言うので、お願いします、と果物は任せ、シホはティーカップとアイスティーのボトルをトレーに乗せ、店に戻る。
「冷たい紅茶ですが、いかがですか?」
店に戻ると、二人はある棚の前で何やら盛んに話していた。
「あ、ありがとー。嬉しい。」
「ありがとうございます。いただきます。」
二人のそんな返しに、シホはにこやかに会釈すると、商談用の大きな丸テーブルの上を少し片付けて、紅茶のセットを用意した。「テゥアータ」と記された、まだ見ぬ異国の地図が隠れぬように、茶器を並べる。
その間も、二人の話は続いている。特に聞くともなく聞いていたが、シホはなんとなく、二人の関係が赤の他人ではなく、かといって恋人同士というわけでもなく、きょうだいなのだろう、と察した。どちらが上かはわからないが、歳は近いはずだ。どちらもシホよりは少し上。もしかしたら、同じ歳、双子、ということもあるかもしれない。
そう考えた時、シホは、あ、と理解した。
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