第2話 ココアと聖女と双子
「ほんっっっとうに、美味しいココアだったんですよ、リディアさん!」
「ほう……」
「絶対、リディアさんは好きだと思いますよ。」
「……なぜだ?」
「え……あ、あ……まい……から?」
「……ただ甘いだけで、か?」
え、違うんですか、とシホは店の玄関の戸に手を置きながら言いかけたが、その玄関を押し開いて外へ出たとたん、目に入った二人の男女の姿に、言葉を飲み込んだ。
綺麗な青い髪に紅い瞳の女性と、黒髪に鋭い目付きに縁取られた青い瞳の男性が、店の前に置かれたベンチに腰掛けたまま、こちらを振り返り見ていた。学生だろうか。同じような仕立ての、同じ色の衣服を身に付けている。
シホがあれ、っと思ったのは、女性の方の印象だった。青い髪に紅い瞳。最近、こんな感じの人に会ったような……
「あ、ほんとだ。可愛い。」
その女性の方が、シホをしっかりと見据えてそう言った。あまりに唐突なことにシホが目をしばたたかせると、今度は目付きの悪い黒髪の男性の方がベンチから立ち上がった。
「あ、いや、お若いな、ということです。」
「リコリー、それ、フォローになってない。むしろ可愛いのままの方がいい。」
遅れて立ち上がった青髪の女性が、リコリーと呼んだ男性の言葉を引き取って続ける。二人の人と話しているはずなのに、まるで一人と話しているかのようにスムーズな言葉のやり取り。シホはなんとも不思議な感覚に陥った。
「この骨董店のオーナーさん、ですよね?」
「え、あ、はい。あれ、お客さんですか?」
女性の言葉に、シホは応えながら二人の手元を見た。そこには見覚えのある紙コップが握られていて、あ、と思う。
「ココア……」
「あ、これ、飲みました?」
「美味しいですよね!」
「美味しいよねー。」
「美味しいよねー。」
「……美味しいのか。」
二人の男女とシホが、とたんに意気投合して笑顔になると、リディアが珍しく羨ましげな声を出した。
「あ、それより、お店にご用ですか?」
「あ、いや、用ってほどのことでも……」
「品物、見せてもらってもいいですか?」
目付きの悪さに反して、奥ゆかしい態度の男性を置き去りに、たったいま、ココアで心を通わせた青髪の女性が前に進み出て言った。
「ちょっと、アリトラ、悪いよ。お出かけするところだったみたいだし。」
「あ、いいんですよ。じゃあ、リディアさん、頼めますか?」
「……わかった。」
そう言って、リディアは長い黒髪を翻すと、そのまま歩き去っていった。
「リコリー並みに目付き悪いね、あの人。」
「ちょっと、アリトラ……」
「見た目で損してるんですよ、リディアさんは。」
フォローしようと思ってしたわけではなく、シホが心の底から思っていることがそのまま口から出た。リディアの場合、これまでの生き様自体があの鋭すぎる人相になっている訳だけれども、そうだとしても、あの怖い顔で損をしている場面は多いと思う。本当は、心根の優しい人だ。
「あ、それよりどうぞ、中に。何かお探しですか?」
言いながら、シホは二人を自分の店の中へと
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