第5話 スタンダードなお茶
キッチンに入ると、そこにはフィッフスがいた。
「店の方からいい匂いがするね。リディアかい?」
「え、よくわかりましたね。」
その匂いのせいなのか、それともお茶の時間になるところだったからなのか、ちょうどフィッフスはティーポットを用意していた。茶葉はスタンダードなフルリーフのダージリン。
「お茶菓子だろう? あの子、あれが好きでねえ。一度教えたら、あれしか作らないんだよ。」
「あれって、何て言うお菓子なんですか? ケーキ?」
シホはフィッフスに聞きながら、茶葉の紙袋をそれとなく自分の近くに引き寄せる。魔力で熱することができるコンロには、
「え? 名前かい? たらし焼き。」
「た、たらし焼き……ですか?」
「そう。たらして焼くからねえ。」
それはそうだが……
「それって、もしかしてフィッフスさんが名付けた……」
「まあ、名前なんていいんだよ。あの子の焼くあれは、美味しいよ。たぶん、あたしより焼くのが上手いね。あ、なんだい、シホ、お茶、淹れてくれるのかい?」
それとなく動いていた手元にフィッフスが気づいたようだ。にこりと笑うと、フィッフスはティーポットもシホに差し出して、コンロの薬缶も取って近くに置いてくれた。
シホはフィッフスに教わったお茶の淹れ方を思い起こす。ティーポットの蓋を手に取り、外して中を覗くと、既にティーフィルターは着いている。シホは薬缶の持ち手を握り、まだ茶葉も何も入れていないティーポットに熱湯を注ぐ。そうしていいところまで注いだところで、薬缶からティーポットに持ち替えると、ティーポットの中に入ったお湯が、ティーポット全体を温めるように、手首を返してゆっくりと回す。
ティーポットがしっかり温まったところで一度置くと、蓋を開いてティーフィルターを取り出し、ポットの温めに使ったお湯を、取り外したティーフィルターにかけながら流しに捨てる。これでティーポットの準備は完了だ。
「はい、ティースプーン。フルリーフだから、ちょっと多めにね。」
フィッフスに言われ、固く頷いたシホは、差し出されたティースプーンを受け取ると、茶葉の紙袋を開く。こんもりと見える程度に掬い上げ、それを人数分の計四杯、ティーポットに入れる。そして再度、薬缶を手にし、ティーポットへお湯を注ぐ。
「蒸らしは大きめのフルリーフだから……」
「二分から三分ですね!」
シホが答えると、フィッフスは微笑み、ゆったりとした紫のワンピースのポケットから、あの金の懐中時計を取り出し、時間を見てくれている。シホはフィッフスの手の中の文字盤と、ティーポットを交互に眺めてその時を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます