第2話 『魔女』の見解

「それも『発掘品』さ。形状としては杖だけど、それぞれに込められた魔力がある。使用者はその表面に描かれた魔方陣に触れるだけで、込められた魔力を引き出すことができる、っていう代物さね。」


 神妙な顔つきでフィッフスの言葉を聞きながら、クラウスが棒切れを回す度に、清らかな鈴の音が響いた。クラウスの手首には、フィン国から貸与された魔法陣付のバングルが装着されている。周囲に自分の存在を知らせるためのもので、この国では盲目の人間はそれを貸与されて身につける。他にもそうした人々がより生活しやすくなるための魔法道具がこの国には多くあり、全て貸し与えられている。旧時代の魔法遺物研究者であるフィッフスは、それらひとつひとつをずいぶん丁寧に眺めていたが、クラウス自身は特に必要としないため、身につけていない。

 洗練された騎士であったクラウスは、ある事情から視力を失ったが、その騎士としての修練が、物や人の気配を読み取る力として昇華し、視力無しでも殆んど以前と変わらない生活をできている。ただ、人混みでは自分より小さな子供や犬などに衝突してしまうことがあるため、バングルだけは常に装着している。


「杖、ですか……」

「フィンに来て、同じ様な設計理論のものをずいぶん見たけどね。あたしらがいた大陸の人間も、同じ人間だった、ということだろうね。つまり、少しでも多くの人が便利に暮らせるようにしたい。」

「そういう善意……ですか?」


 シホはフィッフスが常々話している言葉に反応して口を開いた。

 シホたちがいた大陸では、既に魔法の力は失われて久しい。新たに魔法の力の宿った道具を作り出すことはできず、フィッフスたちのような旧世界の研究者たちが、過去の遺物を発掘して研究し、使用可能なものを用いている程度にしか、魔法の存在は認識されていない。そんな世界で、『魔女』と揶揄されながら研究を続けていたフィッフスは常々、ある理解に至った、と話している。それは即ち、『善意』だと。


「そうだね。困った人がいたら、魔法の力で過ごしやすくする。なんでもない人の日常だって、魔法の力で過ごしやすくする。そうした開発者たちの『善意』がたくさん感じられるんだよ。それがこの国に来て、確信に変わったよ。やっぱり魔法は、人を貶めるものではない。幸せに生きるためのものさ。」

「……で、フィッフス殿。この棒切れは……」

「ごみじゃないよ! その棚の角に径の太い筒があるから、そこに差しといておくれ

。」


……なんだかんだで片付かないのはフィッフスにとって、この店の商品全てが研究対象であり、全てを大事にしているからなんだなあ、とシホは微笑む。

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