第4話 お湯の温度と茶葉の量
「よくこの味の違いに気づいたねえ。」
「あ、えと、フィッフスさんのお茶が、その、好きなので……」
フィッフスはにっこり微笑む。
「問題はお湯の温度と茶葉の量、それから蒸らしの時間だね。」
そう言いながら、フィッフスは棚に手を伸ばす。キッチンの上に設けられた戸棚を開き、中からもうひとつ、ティーポットを取り出す。白い磁器で丸くふくらみのある胴には、華美でない淡い色の花が描かれている。
「普通の紅茶なら、沸騰したてのお湯でポットを温めてすぐ淹れればいい。けど、
フィッフスはコンロに置いてある薬缶の蓋を開ける。湯気が上り、僅かに遅れて高温の蒸気を感じた。が、高温、と言っても沸騰した直後のものとはやはり違う。春摘みを淹れるには、ちょうどよさそうな温度だった。
「ほんとは温度計があるといいんだけどねえ。今度探しに出てみるかねえ。」
言いながら、フィッフスは薬缶に蓋をして、同時に逆の手で新しく棚から下ろしたティーポットの蓋を開く。中にティーフィルターが入っていることを確認すると、今度は薬缶に蓋をした手で茶葉の袋を取った。
「カップ4杯分の茶葉だけを入れて、と。ここは普通の紅茶より多めがいいねえ。」
大さじのティースプーンを手に取り、通常の
「で、お湯を入れて……」
フィッフスは、そこで身に付けたゆったりとした紫のワンピースのポケットから、懐中時計を取り出した。金色の時計は年代物で、傭兵として世界各地を飛び回っている夫と揃いで作ったものだ。
「蒸らしの時間は2分から3分。3分蒸らしたら、1煎目としては蒸らし過ぎだねえ。」
フィッフスは時計の針に注視したまま言う。
「2煎目なら3分ちょっとくらいでもいいけどねえ。蒸らし時間は、特に春摘み茶葉の風味の濃さに影響がすごく出るから、ちゃんと計った方がいいねえ」
と、話しているうちに、時計は2分を過ぎた。
「ちょっと早いくらいで蓋を開けて、かき混ぜる。濃さを均等にして、味見。」
ポットの蓋を開けて、かき混ぜる用のスプーンでポットの中をひと混ぜ。色が均等になったのを確認すると、フィッフスは空いたカップに少しだけお茶を注ぐ。ポットを置き、カップに持ち換えて、味見。春摘み特有の、すっきりとした渋みが爽やかだ。
「んん、いいねえ。これで淹れよう。」
フィッフスは懐中時計をポケットに戻すと、カップにお茶を注いだ。ゆっくり注いでいき、最後に掬い上げるように手首を返すと、ポットに尻垂れせずにきれいに注ぐことができる。
「これでどうだい、シホ。」
フィッフスはカップを手に取り、シホに差し出した。
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