第4話 悪がいない!(3)
魔王城は観光の名所になっていた。
行くのに苦労するかな、と思ったジャパンだったが、無料の馬車が出ていて直行することができた。
他の客たちと城の中に入る。
光の届かない場所にある白亜の城というおもむきだ。こう、広大な空洞に建てられた、みたいな。外からの灯りがほとんどない。
尖った屋根の塔がいくつもあり、四角い箱のようなでかい回廊がそれを支えているように窓から見えた。窓も人間の大きさのそれではなく、縦に長く木組みも円と線が絶妙に組み合わさっていてちょっとおしゃれ。
しばらく進み、魔王の玉座という場所で客たちの足が止まる。
「おお、ここが魔王のいた場所か!」
「ひっろいべー!」
「ゆうしゃってここでたたかったの?」
などなど騒がしい。
賑やかとも言う。
だがこれこそジャパンの狙いだった。
「う、うおおおお、おおおおおお!」
ジャパンはそれっぽく床にうずくまり、両手でつかんだ頭を左右に振る。
客たちは「どうした?」「あんちゃん大丈夫かい?」などと寄ってくる。
「余に……気安く触るな…………」
ぐぬぬぬ……全身に力を込めて筋肉を隆起させる。
「な、なんだ!?」
「どす黒い煙がこの子の身体から!」
「まさかそんな!」
くつくつと笑いながら、ジャパンは身体を宙に浮かべた。
もちろん従来から備わっていた力だ。黒い煙も以前の世界から持ち越した暗黒魔法を流用しての演出。
「余は、大魔王。魔王の死より呼び醒まれし、新なる王なり」
場は騒然となった。
発狂した者も出て、無事な者だけを乗せてどうやら馬車は都へ帰っていったようだった。
これで最初のつかみはオッケー。
あとはどんどん広まってくれると助かるんだがなあ、とジャパンは誰もいなくなった魔王の玉座であくびをした。
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