第2話 悪がいない!(1)
アイザという若者が転生し、魔王を討伐したことで世界に平和が訪れた。
それまでは長らく人間と魔族で血みどろの戦いが繰り広げられており、ようやく訪れた休息に両種族は懸念されていた争いの余波もなく手を取り合っている。魔王から受けた石化の呪いによりアイザは石像となって都の中心部に置かれることになる。両種族から尊敬のまなざしで見つめられる姿は、やがて勇者アイザの呼称とともにアイザ広場と呼ばれる。
「だったか?」
『ボリボリボリ…………そうよ』
再転生したジャパンは、その世界の情勢の大まかなところを、女神に尋ねる。
女神とは念じればどこへ居ても通信ができるという親切仕様だった。前の世界と変わっていないようで安心あんしん。
「……また食ってんのか」
『……悪い?』
「まだ太る気か」
『早々に殺してもいいのだけれど?』
「冗談だ、情報さんきゅ」
『何をするのか知らないけれど、くれぐれもわたしの仕事を増やすことだけは』
念話を切った。
なぜなら、きっと仕事を増やすことになるだろうから。
わっくわくが止まらないの~。
つい歌い気味に口ずさんでしまった。
”問題のない世界なんざつまんねえ”
これがジャパンが再び旅立った理由である。
平和を愛し、平和を守るなんざ嘘でした。ほんとはその世界をかき乱したくてたまらない性分なのがこの男である。
アイザ広場で石畳で持ち上げられた石像と相対したジャパンは思う。
「まずはこいつの石化を解いて勇者を『偶像』から『実像』にする必要があるな」
この世界が平和でいられるのは、力加減が拮抗しているからだ。
数の人間に対し、力の魔物。
ジャパンはどんな情報でも瞬時に見抜く能力<千里眼>でこれを知った。
力の魔物に傾いていた時期は、魔王が暴虐をふるっていた時期だろう。
そして、アイザが勇者として対抗するようになってから、力の釣り合いが取れるようになったはず。
両者が退場している現在も同様。
ならば、どちらかを世へ再び解き放てばいいだけだ。
あの女神に「魔王を復活させて?」と頼んだら、鉄拳で頭部を吹き飛ばされることが容易に想像できる。よって、秘密裏に動くとすれば、勇者を復活させるほうだろう。
にしても賑わっている印象が強い。
人々に活気がある。
前の世界ではもっとのほほんとのんびりしていただけに、これは刺激的だ。
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