おれたちチーム異世界転生 ~もう解決しちゃったなら新しい問題を配給します~
水嶋 穂太郎
第1話 世界に飽きた。
キャラクター描写がノってしまったため長くなってしまいました。
本来は一話500文字程度に収めるつもりで書きます。
* * *
おれの名前はジャパン。
という、自己紹介めいた最初の文だけで「こいつもう駄目だ」と思われても仕方がない。
地球の日本に産まれて、第二次反抗期中に事故に遭って、自分でも驚くほどテンプレ的に死んだ。
死んだ先は平和そのもので、悠々自適に過ごしていたんだが、これが飽きる。たぶん、日本の田舎でペンションを営んだりしていたら同じ気分になったと思う。
で、再転生することにした。ってことで――――。
「ちーっす女神おひさー、菓子折り持ってきたぞー」
「あなたねえ……」
おれが女神と呼んだ女が振り向く。
見るからに重そうな十二単を華麗に着こなすやつである。
顔の造形もよく、いくらかの男子なら惚れてもおかしくはないかもしれない。……おれはあり得ないが。なぜならば。
「また太った?」
「ぶっ殺すわよ!」
着やせするタイプなのだ。
世の中の淑女の皆さまには申し訳ないが、おれジャパンはくびれのあるほっそりとした身体と、ばいんばいんの胸にぼんっと突き出るお尻を愛する男なのだ。どうだ、これだけで、自意識過剰男だこいつとは関わりたくない、と思えるだろう? 正解だよ。
「おれの眼は誤魔化せないぜ」
「わたしのあげた能力をイタズラに使わないで!」
「いいじゃん減るもんじゃねーし、ほーれほれほれ千里がーんっいてえ!?」
殴られた。
女神だけあって(?)めちゃくちゃ痛い。
「なにすんだ!」
「のぞきに使うお馬鹿さんに鉄・拳・制・裁」
涼しい顔をして物騒なことをしやがるのだ、この女神は……。
だが寛容なおれは手では返さず口で返す。
「暴力はよくないぞぉ。暴力女は婚期を逃す……」
「うっ!」
女神は図星を突かれたようで、胸に片手を当ててよろめいた。
たたらを踏んで転びそうになったところを、ぐっとこらえたようだ。
腐ってはいないだろうが太っても女神である。毅然とした態度は崩したくないのだろう。
結婚の体験をしておいたのが役立つなあ……。
先立ってしまったおれは妻に申し訳ないことをした。が、おれはやりたいことをやる男なのだ。許せ。
ちなみに今いる場所は女神の住みかで、日本の古式ゆかしい家屋っぽさがある。床は畳だったり、壁は土作りだったり、灯りは実際の火だったり(なんでも、神力で作ると風情がでないとか)細部にまでこだわり抜いているらしい。
でかい着物で動きまわるにはさぞかし大変だろうと思うのだが、そこは女神の力を使って快適にやっているらしく、どこを押さえてどこを逃がした生活をしているのかさっぱりわからん。
囲炉裏のある部屋で、閑話休題。
「だ、大丈夫よ。いまから痩せれば余裕で間に合うわ」
「フラグじゃん」
「あなたが悪いのよ! 毎度毎度おいしそうなお菓子の差し入れを持ってくるからじゃない!」
「食べてるじゃん」
「もったいないからじゃない!」
「うちで作ったお菓子、相変わらずうめーだろ?」
「なんで異世界転生して能力まで持たせたのにお菓子職人になったのよ!」
「成り行き」
「はあ……悔しいから全部いただくわ。あなたのぶんはないわよ」
「どうぞお好きなだけ」
手遅れじゃね? この女神?
男神でもなんでもいいから一緒になってくれるやつがいないと、さすがに不憫だぞ……。 ※不憫……ふびん(哀れなこと、かわいそうなこと)
さて、『餌』も食わせて要求を断れなくしたところで、っと。
「で、再転生させてもらいてえんだが、要望いい?」
「んぐんぐ……んぐ。わたしのできる範囲と倫理にもよるけれど」
「平気へーき悪いことなんてしねえから」
「嘘だったら拳がうなるわよ?」
恐ろしい……。
この女神は『やる』と言ったら『やる』のだ。
一度だけこの女神の逆鱗に触れてマジ殺しの危機に立たされたことがあったが、嫁が間に入ってくれなければ死んでいた。何があったかは口にするのもはばかられてしまうほどだ――。
おれはごくりと生唾を飲み、ぐっぱぐっぱと手のひらを開け閉めして平静を保とうとした。大丈夫、転生は二度目。結婚だって体験したし、子宝に恵まれて子育てもやった。おれはジャパンだぜ。日本で子どもやってた頃とはちげえんだ。
そんなおれの様子を察した気配もなく、女神は踏み込んで聞いてきた。
「どんな世界に行きたいの?」
「他に転生者がいて、もうそいつに問題が解決されちゃったチート世界」
おれの本意に気づくか気づくまいかドキドキするな……。
「今の世界と変わらないじゃない? なにか企んでない?」
「ないない! おれは平和を愛し、平和を作る男ジャパンだぜ!」
「…………じゃあとりあえずわたしの管轄で一件紹介してあげる」
「やりぃ!」
おれの手からは冷や汗が引き、熱いものに置き換わっていた。
「やっぱり何か企んでるでしょ」
「ないない! なーんにもないよ!」
「はあ、もういいわ。お菓子も食べ切っちゃったし」
えっ、マジで?
どんだけ早食いなんだ、とおれはあきれながら、転生の証である青い粒子の召喚陣に全身を包まれていく。
やわらかなベッドに飛び込んだかのような感触とともに、意識が遠のいていったのだった――。
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