一日後(木) 俺のスマホが格安だった件
好きな時にテレビが見られる。
サクッと遊べるものから有名な大作まで、どんなゲームも遊び放題。
無限と言っても過言ではない量の動画が、次から次へとオススメされていく。
「おぉ……」
スマートフォンという文明の利器の恐ろしさを知った俺は、思わず唸り声を上げた。
届いたのはお昼前だった筈なのに、気付いた時には夕方に。もしも受験期に持っていたら、まず間違いなく誘惑に負けて合格できなかっただろう。
購入したのは有名どころの型落ち機種であり、契約は格安SIMに乗り換え。今までのガラケーと毎月の金額が大して変わらないのはありがたいが、手続きや設定について自分で調べるのが結構大変だった。
『ひょっとして米倉氏で?』
『操作わからん』
『何の操作か詳細求ム』
『スマホの(笑)』
『草』
噂には聞いており気を付けていたものの、SNSをインストールした際に電話帳に登録されていた相手全員へ、俺が始めたという連絡がいってしまったらしい。
まだ操作に慣れずセッティングも途中の状態で、高校だけでなく中学の知人友人からも通知が飛び交い、ひとまず親友の
『ボタン押す感覚なくて打ちにくい』
『フリック入力が楽かと。長押しして方向を変える感じですな』
『何回も押さなくていいのか!』
ガラケーなら例え犯罪者に捕まった場合も画面を見ないままメールを作成して助けを呼べる自信があったが、スマホとそれはできそうにないな。
ちなみにこういう時に限って使い方を熟知している姉貴はお出かけ中。卒業式までに届けばアキトに直接聞くこともできたのに、一日遅れてしまったせいで予想以上の苦労だ。
『これ、よく使う友達を上にしたりできないのか? 非表示か削除しかない感じ?』
『トークは一番最近会話した人が上に来る仕様ですが、友達の順番は変えられないかと』
『何か知らない人まで出てきたんだが』
『たまに知らない人から追加されることもあるので、ブロックして通報安定ですな』
『マジでか。通報って(笑)』
『まあ基本的に使うのはトークだけで、友達画面を見ることは少ないかと』
『了解だ。それと友達に公式アカウントいて消せないんだが』
『スライドでブロック可能』(友達が公式アカウントだらけのスクショ)
『噴いた。何でそんなにいるんだよ?』
こんな感じで最も使うことになるであろうSNS関係の情報を中心に収集。それ以外にも無線と同期させたものの本当に通信料が掛かってないのか不安だとか、アプリは自動更新のままか手動に変えるべきなのかとか、片っ端から質問をしておいた。
少し慣れてきた辺りで他の仲間達とも連絡を取り合い、いくつかのグループにも参加。アニメキャラや面白スタンプといった応酬の中で、一人デフォルトスタンプを返す。
そんな会話の中で使い方の確認がてら仲間達にオススメされた動画やゲームを見ていたら、いつの間にやら日が沈んでいた…………という訳だ。
『ピンポン♪』
「!」
今日だけで何回目になるかわからない通知音が鳴る。
メッセージを送ってきたアカウント名は、
『櫻かい?』
『おう!』
『ついにスマホを買ったんだね』
『今日の昼に届いて、ようやく操作にも慣れてきたところだ! 大学入った後に備えて、ふるふるのやり方も覚えないとな』
『ふるふるで登録している人は、あまりいないと思うけれどね』
『え? そうなのか?』
『大抵はQRコードだよ』
どうやら俺はまだまだスマホ初心者らしい。危うく恥を掻くところだった。
阿久津……ではなく水無月との会話を優先にしつつ、合間を見てクラスメイト達とのグループ会話にも返事をしておく。こんなに楽しい世界を今まで知らなかったとは、少し勿体なかったかもな。
『ところで明日だけれど、時間は十時でいいかい?』
覚えたてのスタンプで『OK!』と返すが、水無月の反応は『遅刻した場合は追加で一本奢ってもらおうかな』と至って平凡。どうやらメールの絵文字と同じで、スタンプも多用するタイプとあまり使わないタイプがいるみたいだ。
それにしてもSNSは凄い。何が凄いかってメールに比べて会話のテンポが圧倒的に速く、グループの場合だと流れに追いつけないレベルである。
「…………」
そんな速度だからこそ、自分の発言に既読が付かない時間がもどかしい。
アキトは即座に返事が来たものの、水無月との会話はややテンポが遅め。何か別のことをしながらなのかもしれないが、その度に変なことを言ってしまったかと不安になる。
「お兄ちゃ~ん! 御飯~!」
「はいよ!」
梅に呼ばれた俺は、スマホを片手にリビングを下りていく。
そういえばメール機能も、格安であるため初期設定には含まれず。友人との連絡手段はSNSで済みそうだが、まだガラケーの妹のためにも使えるようにしないとな。
『ピンポン♪』
『ボクも明日を楽しみにしているよ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます