第10話 ケース03「不動産のフドウさん」

「やっぱ資産は実物に限るわ!」


ガハハと笑いながら語るフドウさん。

業者にはめられてテンパっていた時の映像を見せてあげたいものである。


「とりあえずなんやかんやテコ入れして、落ち着きましたからね。とはいえ、まだ予断は許さないですが。」


相場が暴落したところで、家賃の金額がガッツり変わるわけではないのが実物資産の強みである。言い方を変えれば、高値掴みさせられた損失はどうしようもないということでもあるが、そこはもうあきらめていただいた。


「まぁしゃあないがな。終わりよければなんとやら、や!」


「ってもまぁ、ローンも残ってますしなんも終わってないですけどね」

あと20年。気の長い話である。


「それはそれとしてや、社長。二件目の物件、買おうと思ってんねんけど」


「また急ですね」

のど元過ぎればなんとやら、である。


とはいえこのフドウさん、ちゃきちゃきの大阪経営者であるので、ツボさえつかめばまさに水を得た魚。とはいえ深海魚のたぐいであるが。100キロオーバーの大阪おじさんが、パンチパーマとはいかないまでもくせ毛で、体をゆするように歩くシーンを想像してもらいたい。大体8割フドウさんの外見になる。


「まぁまぁ社長が言いたいことはわかるがな。痛い目おおたのに、切り替え早いな思てんねやろ?でもそこは、考え方変えてな。不幸中の幸いで社長と出会えたんやから、問題解決出来たら次は攻めやなな!っておもうてな」


「素直にそのバイタリティはすごいなと思いますよ」

いや、まじでまじで。

ふつー、ゴミみたいな不動産はめこまれたら向こう五年はへこむものだが、わずか一年半で復活したのはすごい。


「おおきに。でや、買いたいのはずばり、事故物件や!」


「まじっすか」


事故物件。

早い話がまぁ、事件が発生したりなんやかんやで、瑕疵かしがある不動産である。例えば、シンプルに、殺人事件や自殺など。


想像してみてほしい。リフォームできれいになったとはいえ、居間に等身大てるてる坊主がぶら下がっていた部屋に住みたいと思う人間が、果たしてどれだけいるだろうか?

天気は晴れるかもしれないが、気分は大雨間違いなしである。


もちろん、その分安く買える、というメリットはあるが。


「なんでそこ攻めるんですか?」


「いやほら、あれや。この孤独な社会、たとえ幽霊でも寄り添うものがあれば、少しでもすさんだ心の癒しになるんやないかなと思うて」


「んなわけないでしょうが。なんか憑いてます?」


「そーはいうけどな。人がやらんことをするっちゅうのが、ビジネスのコツやがな」

やらなかったことには大抵理由があるはずなのだが、その辺りはアウト・オブ・眼中らしい。


「んまぁ、このコロナ相場で投げ売りとかも増えるでしょうし、そういう問題あり物件ならなおのことでしょうね。その辺狙ってみます?」


「さすが、なんやかんや言いながらプランを示してくれる。そーいうとこ好きやで」


「どーせなら、きれいな女の子に言われたいセリフですね」

パンチのおっちゃんに言われたいセリフではない。


「いうだけやったらタダやがな」


「プライスレスで、心の何かがガリガリ減るんですよ」


「ンな繊細なタチかいな」

えらい言われようである。



このように、なんやかんや言って、不動産は暴落に強かった。

もっとも今後色々受難がありそうな道を進むことになるが、いったんフドウさんのストーリーはここで区切りとする。






・・・不動産は暴落に強いといったが。

ホテルと民泊、てめーらはだめだ。


稼働率9割オーバーで、「いやぁ、忙しくてたまりませんわぁ。インバウンドもほどほどにしてもらいたいどすなぁ」とかほざいてた関西某都市は、死ぬがよい、である。

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