第11話 胎動する悪意
投資で大損を被ったとき、パターンは大体2つに分かれる。
一つ目が、「無気力状態になってしばらく何もしない」、というケース。こちらは、ロスカットなどがキッチリとできているなら、それでいい。
二つ目が、「損を取り返そうと、儲かりそうな話になんでも食いつく」、というケース。こちらは減ったお金をより早く、より確実に失うことになるため、非常によろしくない。
また、こういった運用業界に巣くう裏組織というのは「ブーム」と「流れ」に敏感であるため、被害はより広くなることになる。
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「社長!絶対に儲かる銘柄があるって聞いたんですけど、これどうですか!?」
スズキさんである。
忠告を無視した挙句に株で大損をしてから向こう、ずっとこんな調子である。今の状態はまさに、カモがネギしょってきただけでなく、網とガスコンロと焼き鳥タレまで持参してきているような状態である。
「ちょっと調べてみますね。・・・・んぅー??」
何の変哲もない、新興市場の銘柄である。
新興市場の銘柄とは文字通り、「上場しているがそこまで大きくない会社」の銘柄が売買できる市場で、日経平均などにも採用されていない小口の銘柄群が売買されている。総じて、値動きが荒いか、完全に見捨てられてほぼ値段が動かないかのどちらかのが特徴だ。ちなみに今回は後者である。
「友達の知り合いの、メンターって人から教えてもらったやつなんですけど・・・」
ほぼ他人じゃねーか。
「業績はまぁ、フツーに悪い新興市場銘柄。株価も・・・んぅ?しばらくは特に変哲もなく横ばいだったのが、ここ数週買われてますね?」
「でしょう!何でも知る人ぞ知る銘柄だとか!」
・・・・・・嫌な予感がする。根拠があるわけではないが、こう、なんというか、経験則に基づいた直観である」
「いくつか確認案ですが、その、友達の知り合いの、メンター?ってどんな人なんですか?」
「なんでも、東京のほうで大規模な株式投資スクールをやっている、伝説的な人物みたいです!様々な業界のつながりから得られる情報をもとに投資して、それをスクールでも選ばれた会員に提供しているとか!」
メンター、伝説的、業界情報・・・怪しいキラキラワード連発である。というか業界情報の時点で、インサイダー取引でドボンである。
「ちょっと詳しく調べてみたいとですね。相手に怪しまれない範囲でかまわないので、細かい会の情報とか聞いてもらえますか?時間があれば参加したい!って言って。」
「分かりました!・・・株を買うのは、もーちょい待ってからのほうがいいですかね?」
損をしてからやけに物分かりがいい。
「確認ですが、買うのは自分の証券口座ですか?」
「そうです」
「じゃあまぁ、先々購入する予定だった金額の、5分の1程度なら、いいですよ。ただしいつものごとく結果は保証しませんからね。」
「わかりました。情報揃ったら連絡します!」
まっことめんどくさいが、顧問の仕事としてこのあたりを調べないといけないだろう。経験上どうせろくでもないものだが、はてさてどうなることやら。
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