第20話 そしてまた同じ朝
「ん~」
思わず大きくのびをする。空は晴れ。開け放った窓からは朝日とさわやかな南西の風。先月取り替えたばかりの淡いモスグリーンのカーテンがゆったりと揺れている……
小さなクリーム色の十二のテーブル。シュガーポットに光が当たって眩しい。さて今日はどのクロスにしよう? 壁全体の大きなガラス窓から見える通りはまだ眠ってる。目を覚ますにはもう少し時間がかかる。仕方ないのよね。皆遅くまで働いているんだから。
だけど!
あたしはくるっ、と回れ右をする。そしてよっ、と店のカウンタの下から、大きな目覚まし時計を取り出した。
こないだ、買い出しついでに寄ったのみの市で、恰幅のいいじーさんが売ってたヤツだ。
重いしでかいし、抱えて帰るには辛いシロモノだったけど。でもまあ、前から買おう買おうとは思ってたのだから。
と言うのも。
あたしは奥の部屋の扉を開け、きりきり、と時計の針を合わせた。
じりりりりりりりりりり!!!!!!!!
……う…… わ…… 手に振動。何よこれ、だめだめだめ。持ってられないくらいじゃないのっ。それに何、何デシベルあるの! ……今度から耳栓を用意しておこう。でもそれよりまず言わなくちゃならないことは。
「起きろ!! このホモオヤジども!」
あたしは時計に負けない大声を放った。
「ほれにひてもきひ……」
「マスター!! 口から歯ブラシを出してから! ほらぽたぽた落ちてる!」
へいへい、と「ホモオヤジ」その1はうなづいて、がらがらがらがらぺっ、と口をゆすぐ。でかい目はまだ半分寝てる。プラチナ・ブロンドの髪は寝ぐせ満載。男前が台無し。しかも上半身は裸のまんま。……付け加えれば、昨晩何があったのか丸判り。あんた等隠す気はないのか、と以前嫌味たらたらに突っ込んだから、「知ってる君に何で隠す必要があるっての?」って言いやがった。そういう意味じゃないでしょ。この乙女の前で。
「それにしても君」
マスターはタオルで顔をぐじぐじと拭き、しー、ひー、と口の中に空気を通しながら、さっきの続きを口にする。……ようやくすっきりしたらしい。
「よくそんなでかい時計持ってたねー。大骨董級じゃない」
ランドリーマシンの上に置いた時計をひょい、と片手で取り、マスターはじっと見る。
「しっかしいいシェイプだなあ…… このライン…… うふ、可愛い♪」
ぞく。最後の言葉は甘い、これでもかとばかりに甘い、少女の声。……嫌な特技だ。
と。
「やあおはよう、ルイーゼロッテ。……おいトパーズ、その声は朝はよせと言うのに」
もう一人の「ホモオヤジ」、入れ替わりに洗面所に登場。相棒が居ないので店の方をひょい、とのぞいての一言。
ああまただ。ドクトルはただでさえくしゃくしゃなマスターの髪を更にかき回してる。……いや違う。マスターったら、わざとセットしないんだよなー…… 何よあの顔は。気持ち良さげじゃないの。
全くこのひと達は。
……そしてまた今日も、一日が始まるのだ。
ベル~父をたずねてここまできたぜ 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
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