2.

「どうよ、見事なもんだろ」

 不透明の大きな袋から現れたそれを見て、ダクタリは自慢げに口角を釣り上げた。

「どこでこんなモン見つけてきたんだ」

 対して、ロバートの口調はどうにも呆れ気味だ。ダクタリの趣味を咎めはしなくとも、理解があるわけでもないのが彼の立ち位置だ。年寄りらしい気質というべきか、道具であれ何であれ、積極的に壊してしまうことにロバートはやや否定的だ。あらゆるものの生産が需要と供給のバランスをきちんと成立させている社会においてロバートのようにモノ持ちのいい人間というのは、それはそれで希少だった。

 口を開かなかったジョルジュは、ダクタリの袋から現れたものをじっと観察していた。ロバートにしてもジョルジュにしても、ダクタリの拾い物が十中八九シュプリオンに関するものであろうとは予想していたし、それは大枠では間違っていなかった。

 間違っていなかったが、実際には予想を超えたものであった。

 ダクタリが持ち帰ったのは生きたシュプリオンそのもの。それも人間の代替労働力であるシュプリオンには本来ありえない、少女の姿をしたシュプリオンだった。

 じっと少女を観察するジョルジュの視線に気づいたか、室内をきょろきょろ見回していた少女の両目がジョルジュを捉えた。瞳はかすかに青みがかっているものの白に近い。色素の薄い髪は長く、足元近くまで伸びている。頭髪と瞳の色素が極端に薄いのはシュプリオンのわかりやすい特徴だった。この少女も、その点では例に漏れない。

 少女のシュプリオン、それはもちろん異質ではあった。労働力として生産される以上シュプリオンに子どもは必要ない。そのために成長を早めているのであり、出荷される時点でその容姿は成人した人間と同程度であるのが普通だ。

 遺伝子操作がされているとはいえ生物学上人間ではあるので少女や少年が存在しないわけではない。しかしそれは生産工場内の教育施設でしか見られないものであり、機械の生産ラインや加工食品の製造過程と同じく、普通に暮らしていればまず目にすることのない裏側の存在である。

 しかしそもそも「少女」という存在自体が三人の、特にロバートとジョルジュの目には興味深く映っていた。

「まさかこの年になって、こんな女の子を見る日が来るたぁな」

 ロバートが感慨にふけるように呟く。

 言葉が通じているのかどうか、少女のシュプリオンは言葉を発したロバートへと視線を移したが口は開かず、何の意思表示もしない。

 まだ二十代のダクタリはともかく、三十代のジョルジュと五十代のロバートにとって、もはや少女などというのは過去のものだった。

 均一化された教育を平等に施すという方針のもと、この社会では同時期に試験管で生まれた子どもたちを一つの施設内で育てる。現在ではごく一握りの富裕層でもなければ親と子が顔を合わせることさえ無い。そのため、社会に出て時間が経てば経つほど子どもというのは縁遠い存在になっていくのが普通であった。

 だからだろうか。ジョルジュは少女の仄白い瞳を目にして、意識にさざ波が立つのを感じていた。

 当然ながら、ダクタリの目的はこの珍しいシュプリオンをズタズタにすることにある。ダクタリが彼らに見出す最大の価値は、人間に酷く近しいにも関わらず人間ではない彼らであれば、破壊しても罪に問われないということにあるからだ。

 一方で、ロバートは物持ちのいい人物である。使用期限にまだまだ余裕の有りそうな少女をすぐさま壊そうとするダクタリの行動は彼にしてみれば論外だった。

 この時点で一対一。結果として最終決定件を預けられたジョルジュは、しばし唸った後で、ロバートに同意した。もっともロバートほど道具に執着があるわけでもないジョルジュの主張は、せっかくの珍しい拾い物をすぐに壊してしまうのは勿体無いだろう、というどことなく他人事めいたものではあった。

 ともあれ、せっかくのお宝を三人で楽しもうというダクタリのアテはすっかり外れ、当然といえば当然の穏当な結論に落ち着いた。

 もちろん、ダクタリは折を見て当初の目的を果たすつもりではあった。

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