第14話 哭いた狼

 ーーーイーミル、イヴを呼んだ嘉武はまだ、ガヴァルドと戦闘を繰り広げていた。だが、それはもう一方的。爪を失い、ガヴァルドの顔や体はボロボロで、何を原動力に動いているのかさえわからない状況。


「ゴロ・・・スッ!!ぜっ・・・ダイ・・・ゴロジ、でやるぁぁ!!」

「いくらなんでも、しっつこいなぁ!」


 嘉武は痺れを切らし、ガヴァルドの顔に拳を埋め込む。牙は折れ、顔面はもうグチャグチャで夥しいほどに出血している。返り血もかなりの量。そんなガヴァルドもドーピングしているとは言え、回復が追いつかずに呻き声を上げ苦しんでいる。ここまで来れば、生命活動もかなり危険な危機的状況である。


「お前サエ・・・お前サエ居なゲレバァァァア!!」


 ガヴァルドは顔を覆い、血反吐を吐きながら哭き叫ぶ。


「イーミルさん!?イヴ!どうしたんだよ!何かあったのかよ!?」

 嘉武は虚空に吠える。すると、奥からボロボロになったイーミルとイヴの姿が現れる。


「済まない、嘉武君。待たせちゃったみたいだね・・・」

「ほんと、一人じゃ何もできないのね」


 だが、二人共ギリギリの様子だった。体中怪我をし、出血量も多い。特にイーミルはかなりの重症に思える。


「どうしたんですか!?その怪我は!?」

「ちょっとトチっちゃっただけだよ。とにかく、時間が惜しい。さっさと済ませてしまおう」

「そうね、早くコイツを引き取って貰ってもう休みたいわ」

「・・・・・・」


 ガヴァルドは必死に抵抗する。それでも、力不足。イーミルに寄って即座に無力化される。

 嘉武は考える。どうにもクサいぞ、と。目の前には手際よくガヴァルドの拘束を進めていくイーミル。それを地べたであぐらをかきながら傍観するイヴ。だめだ、質問している時間はない。そう思えば体が勝手に動いていた。


 グシャァ。


 嘉武の本気の右腕がイーミルの首を曲げる。即座にフレアで胴体を焼き切り、イヴの方を見る。


「イツから、解っていたぁ?」ねっとりとした声がイヴから発せられる。

「答える道理がないッ!」

「つれなイねぇ」


 嘉武はイヴに襲いかかる。イヴも応戦するが、何故か魔法攻撃を使ってこない。きっと偽物だからだろう。もしくは、挑発だけが目的なのか。それに、確実に攻撃を当てているはずなのにスカスカと空振るような感覚。変な手応えだと嘉武は思考する。そして目の前のイヴが被弾の度、姿形が醜く歪む。


「あぁ、君ガ嘉武、クンだね。今回は貴重なサンプルの提供、感謝シているよ」

「煩い!ナメてるなら一気に決めるぞ!」

「アハハハハッ!!やってみテよ!」

「うおおおおおあああああ!!!」


 嘉武は醜く歪んだイヴの真上へと飛び上がる。右腕を翳し、左腕でその右腕を支える。


「吹き飛べええええぇぇぇっ!!!!」


 あの時と同じ、爆裂魔法をピンポイントで放つ。力の制御はどうにか上手く行った。嘉武の目の前には三メートルほどのクレーターが出来上がる。


 歪んだイヴの跡形はもう無い。そして、ガヴァルドを自分で引き渡そうとした時、焼き切ったはずの残骸の上半身ががガヴァルドを連れ去っていた。


「待て!!」


 だが追ったところで、ガヴァルドと上半身のみの残骸は闇夜に消えていく。そして、不気味な笑い声だけが辺りに反響する。


「キィキキキ・・・」

「気持ち悪い声だ」


 そう言って、嘉武はその場に崩れ落ちる。そして、爆裂を放った右腕は衝撃でガタガタになっていて体を支える事さえままならない。


(力を使い過ぎたな・・・暫く、動けなさそうだ)


 その頃、イーミルとイヴは化け物との潰し合いが佳境に達していた。

「こいつら、全然手応えがない!切っても焼いても、全然だめ!頭部は硬すぎて歯が立たないの、どうにかならないかな!?」

「僕も試している、何か弱点はあると思うんだ次は首を割いてみよう」


 そう言うとイーミルは化け物の反応出来ない速度で背後へ回り込む。


「シャドウエッジ」

 イーミルは短剣を化け物の首に当て一瞬で切り裂く。そして黒い体液の飛沫を雨の様に放ち、ゴロリと転がり落ちた頭部へトドメを打つ。


「イモータルエッジ」

 ブォンブォン!

 と振るわれたイーミル懇親の二撃が入る。その二撃は速く、重い。一撃目で頭部を深く切り裂き、二撃目で粉砕する様な切り裂き。まるで打撃のような剣捌きだった。


「クライシスエッジ」

 

 ズゴォン!!


 最後は、頭部を完全に破壊する様な一撃。重みに重点を置いた最強の短剣技。化け物の頭部はしっかりと砕かれ、四散していている。もはや、再生する様子は無い。


「ここまでやらなくちゃならないとはね。いやぁ、参ったなぁ」とイーミル。

 その様子を見ていたイヴは驚愕と同時にあの化け物を倒せるという事実に安堵する。


「イーミルさん、こっちもお願いできますか!?」

「ちょっと待ってね、結構疲れるんだコレ」


 イヴは炎縛で化け物を捉え続ける。そしてイーミルはポーションを飲み干し、捉えられた化け物の首目掛けて再びシャドウエッジを放つ。

 そのまま一匹目と同じく、化け物の頭部を破壊した。その姿はもう、短剣使いとは思えない程のパワフルさ。短剣のデメリットをカバーする程の威力である。


 やれやれ、と腕を振るイーミル。

「もーだめ、次は腕が持たないよ」と溜め息をつく。

「イーミルさん助かりました、意外ととんでもない一撃持ってるんですね」

「短剣使いは舐められやすいからね」


 イーミルは微笑みながら顔についた黒い体液を拭う。そんなイーミルをイヴは羨望の眼差しで見ていた。


(あたしだけじゃ、アイツらには適わなかった。同じ短剣使いを名乗るにはまだまだ力不足ね・・・)


「そんな事より、行くよ」

「はいっ」


 イーミルとイヴの二人は急いで嘉武の元へと駆けていく。

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