第11話 異世界のご馳走
その晩、イヴから夜を一緒に摂らないかとの誘いがあり、二人は繁華街を歩く。
「正直、この街は美味しいものが多くて居心地いいのよね」
「僕もそう思うよ。初めての街がここで良かったって」
「嘉武はこれから冒険者をするんでしょ?」
「まぁ、やることがないからね。特にこだわりもないし」
「ふーん」
「自分から聞いておいてなんだよそれは」
二人はそんな会話をしながら目当ての飯屋に着く。中の雰囲気はガヤガヤしているわけでもなく、静か過ぎることもない。若い二人で来るにもちょうど良い雰囲気だった。
「ここで食べたバロー牛の肉が美味しかったのよ!」とイヴが目を輝かせながら言う。
「へぇ、魔物って美味しいの?」
「あんた何言ってんの?基本魔物なんて食べないわよ。臭すぎて食えたもんじゃないわ。でも魔力確保するためにやむを得ずって事はあったけどね・・・」
「なら一応、食べられるんだ」
「魔物肉だけしか取れないところじゃ魔物肉でも美味しく頂いているらしいけどね。あたしには考えられないわ」
(強くなるには魔物肉でも暴食したほうが良いんだろうけど、僕にできるだろうか・・・)
話をしていると、店員が注文を取りに来た。イヴは前回食べたというバロー牛のメニューを頼んでいた。嘉武もせっかくなので同じのを注文した。確かに、イヴの言う通りかなりの美味で、嘉武はこの世界でもこんなに美味しいものが食べられるのかと感動した。
そして食事も済み、嘉武はずっと気になっていたことを聞いてみる。
「そういえばさ、イヴってマンハンターなんだよな。どうして暗殺者とかではなくて、マンハンターを名乗るんだ?」
「アサシンなんてしみったれた陰キャは向いてないからよ。わかるでしょ?どっちみち殲滅しちゃえば変わりないのよ」
「表向きに殺っちゃあ、恨みを買うだろ」
「アサシンも変わらないわよ、姿が表から見えてないだけで普通に存在するんだから」
「まだ若いんだし、イヴともなれば他にもやることが有っただろ。どうして殺しの道を選んだわけ?」
「何?人の勝手でしょ。金が良いのよ。金が。それに、毎回毎回殺してるわけじゃないからね。今回みたいな依頼もあるし、勝手な勘違いはやめてもらえるかしら」
嘉武の質問にわかりやすくピリつくイヴ。何か事情でも有ったのだろう。いつもの調子で誤魔化そうと嘉武は言った。
「天才ならもっとうまい事できそうな気がしてさ」
「煩いわね、あんたに何がわかるのよ!」
「はぇ?」
イヴは机を叩き、勢いよく飛び出して行った。
「何か、悪いことでも言ったっけな」
突然の出来事に驚いた嘉武は頭を掻きながら言った。多少、デリカシーの無い質問をした自覚はあったものの彼女の性格を考えればあの位で怒るとは思っても見なかったのである。
嘉武は二人分の飲食代金を払い、店を出てから呟く。
「あいつ・・・わざとか・・・?」
軽くなった財布をハタハタと振るわせても情けない小銭の音がする。豪快にジャラジャラ言うことはもう無さそうだ。
就寝前、嘉武は先程の出来事を振り返る。自分のどこが気に食わなかったのか聞かなければ、あと少しの間とはいえ気まずい関係になってしまうだろう。
(明日、とりあえず謝っておくか。朝、ギルドへ行ってみよう)
懐に入れてあった小石を眺めながら嘉武は思った。
翌日、嘉武はギルドでひたすら腰掛けてイヴを待った。
(そういえば、もっと違うことを聞けばよかったよな。仕事のことを僕なんかに踏み込まれちゃ怒るよな)
段々と反省の念が募る。すると、突然額が弾かれる。
「ーーーこんなところで何寝てるのよアホ面」とイヴの声が聞こえる。嘉武は某けているうちに寝てしまっていたみたいだ。
「痛っ!・・・ってあれ?イヴか」
「あんたずっとここで待ってたわけ?待つんなら寝るんじゃないわよ」
「あぁ、ごめん。昨日の事、俺に否が有ると思って謝ろうと思ってたんだ」
「そんな事もう良いの、ちょっとイライラしてただけだからもう気にしないで」
「・・・は、はぁ」
嘉武は内心驚愕する。これが女子なのかと。
「そんなことより時間よ」とイヴは吐き捨てるように行ってしまった。嘉武は焦って時計を見てみると時既に遅し、十分は遅刻していた。
(くそっ!来るならもっと早く来いよ!)
イヴより数分遅れて会議に参加する嘉武。なぜか嘉武だけが遅刻したみたいな雰囲気に納得がいかないものの謝り席につく。
「時間には起きると思ってたによ~。お願いしますよヨシタケくん」
ハインは嘉武がギルドで寝ていた所を知っていたらしい。
それから、ハインとイーミルから報告があった。どうやらあの獣人ガヴァルドは『ロータス』というシンジゲートとの繋がりが見えているらしい。それ故綿密な調査が行われていたのだと嘉武も納得した。
エルガーも「やはりな・・・」と思いため息をつく。
ロータスはオルディスの街だけでは無く、各地のゴロツキ等に甘い話を持ちかけて悪事を遂行させているらしい。その対価は薬物、金、女等多岐に渡る。それ故、ゴロツキをやめてロータスの一員になってしまう輩も出てきている。そんなロータスはここ数年で突如頭角を現し、現在では様々な場所でロータスの悪手を防ぐために調査団まで結成されているという。
そんなロータスが一枚噛んでいるとなると事態が変わる。何故なら、ロータスの精製するドラッグは身体能力の増加、思考速度強化、ステータス開放、魔力開放等の力と引き換えに自分の命を削ってしまうという。戦いが長引けば長引くほど本人の命が削られる悪魔の種。服用したら最後、悪の芽が枯れることはない。そして、死んだら最後。死体は一瞬で燃え尽き、この世から消え去る。
エルガーは嘉武への説明を終え、一息つく。
「どうだ、嘉武。冒険者の仕事ってのはこんな奴らを相手にしていく事にもなる。今回は我々の庇護の元作戦に参加してもらうが、気を確かに持て。狼狽すれば最後、首を持っていかれるだろう」
嘉武は異世界を甘く見すぎていた。いきなりシンジゲートが相手だなんて言われても実感がわかなかった。街のゴロツキがそんな大層な話に膨らむだなんて思っても見なかった。僕もあの森で出会ったリーフのように冒険者として楽しくやっていけるだなんて思っていたから。
(僕も、強くならなくちゃな・・・。そこらの冒険者より力はあったとしてもこの中ではきっと最弱なんだろう)
「・・・わかりました。今回、みなさんの力の足を引っ張らないよう尽力させていただきます」
「守られてりゃいいのよ。あんたが戦う必要なんて無い」
「ヨシタケが戦うことになんてなるわけねーだろ。何故ならこの俺が先にツブしちゃうからね」
イヴに続き、調子良さそうにハインが続く。
「ふふ、二人とも心強いね。一応、僕も居るから忘れないでね、嘉武君」とイーミル。
今回、裏で調査していたイーミル。イヴやハインも居るが全員相当の手練なのは間違い無いと嘉武は確信する。
(それにしても、初陣がロータス、か・・・。皆が無事に戻れれば良いんだけどね・・・)
イーミルは皆を眺めながら思った。
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