第9話 その先には何がある

 気づいたときには嘉武を付け回す気配はもう無い。当たり前のように注意看板を踏み越えたからだろう。何かのテリトリーにでも入ったのだろうか。


(なんだろう、大きな気配だ。体の内からゾクゾクと力を感じる・・・)

 力の感じる方へ踏み進んでいく嘉武。そこには、洞窟があった。


「絶対、オークじゃない、何かが居るよな・・・」

 嘉武は苦笑いする。

「最悪逃げればいいし、洞窟の中じゃ不利だな。おびき出してやみるか」


 嘉武は洞窟の入口に立ち、奥へと向けて手を翳す。

「ファイアボール」


 いとも簡単に火球が洞窟の奥へと飛んで行く。そう経たないうちにドォン!と大きな音がする。

 きっと奥には何かあるのだろうと火球を連発する。


 すっかり、洞窟からは煙が立ち上り、もはや内部を視認することはできない。それでも気配はブレること無くそこに存在している。

「こんなんじゃ出てこないか・・・?大層図太いヤツがいたもんだ」


 それから嘉武は水魔法、ハイドロを洞窟内へ打ち込み、雷魔法スパークを出すことに成功しそれらを流し込む。もはや、洞窟内部に生命が残ることは厳しいような状況ではあるのだが、気配は一向に変わることはない。そのまま何度も何度も自分の中の感覚を研ぎ澄ませ連打していく。気づけば、無詠唱で発動ができるほどに。それでも、様子は変わることがない。

 きっと、この洞窟には得体の知れないナニカかが潜んでいることに間違いない。嘉武はそう確信した。


(中に何があるのか気になるけど・・・流石にまだ早そうだ。こんなすぐ死んでしまったら駄女神風に何て言われるか・・・)


「あと、怖いし」と呟く嘉武。


 そして、大方の力を使い果たした嘉武はオルディスへ帰って行く。その帰り道に遭遇したオーク数匹はとりあえず葬った。その時レベルアップしたようだったが、特別な変化はなかった。

(もっとだ・・・こんなものじゃない・・・もっと力をつけなくちゃ・・・)


 ーーーそして、イヴはずっと嘉武の後をつけていた。ただ、嘉武は微塵もその気配を察することはできない。それはプロのマンハンターの実力が並ではないことを意味する。まだ、年齢も若く十六で、経験もベテランと比べて少ない。だからこそ大小つけずに仕事をしているが、実力だけで言えばかなり秀でている。オルディス周辺に居ては存在が浮き彫りになるほどに。


 場所は先程の危険範囲の洞窟。ずっと嘉武がちょっかい出していた洞窟だ。


(それにしても、あいつ魔法使えるんじゃない。しかも結構な火力してたわね。いろんな魔法をめちゃくちゃに打ち込んでいたし、<MP>も相当あるようね。ただ、結構ガサツね~。精度がまるで無いわ)


 今まで嘉武の言っていることはずっと嘘だと思っていたイヴ。あのときの大爆発時からずっと怪しいとは思っていた。どう考えてもあの現場には魔力の痕跡が残っていた。

「何をそこまで隠す必要があるんだか」とイヴはグシャグシャに荒らされた洞窟の中へと侵入する。


「ブライナー」


 イヴは暗視魔法を使い、奥へと進んでいく。そして、嘉武が攻撃していたものは大きな石版の扉だったことを確認する。その石版に手を当て「こんなに手を出していたらいくらあたしでもキツかったかもね・・・」、と珍しく曖昧な小言をこぼすイヴ。きっと、彼女でも自信をなくすような強い気配が中に待ち受けているのだろう。そんな事が合ったとは嘉武には知る由もない。


 洞窟を後にしたイヴは急いで嘉武の監視へと戻る。道中、オークが数匹蹴散らされていたが、きっと嘉武がやったのだろうとイヴは推測する。


 これだけスムーズにオークを蹴散らせるのならば、きっと今回囮になったのにも理由がある。冒険者だとしたならば、軽くシルバーランク以上の実力は有るはず。そのくらいの実力者が名前も知らないような田舎の出身?どうしてそんなに悠長にしていたのか。

 そもそも、同世代の大した力もなさそうな男がただ殴っただけで獣人の血が混じった男が地に伏すようなことがあるか。とてつもない力でねじ伏せたに決まっている。それはもう、あの会議に出ていた者ならば言われなくてもわかっている。

 イヴはずっと考えていた。だが、先程の魔法の連打を見て確信に変わった。下手くそな魔法に反してあの火力、あの魔力保有量。オルディスからこの森目掛けてフレアで加速しようとする無鉄砲さ。明らかに知識が足りていない。

 あの美濃嘉武という男は人には言いたくない秘め事があるはず。それはきっと自分のまだ見たことの無い不可解な謎である。そんな思いがイヴの中に満ちるのだ。

 そのような思考を経て、そろそろ、自分の守るべき囮様に追いつく。そんな囮様の背中を視界に捉えたイヴはインビジブルを唱え、姿を隠し気配を殺す。


 そして「美濃、嘉武ね。なんだか、面白くなりそうじゃん」とイヴは言った。

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