第8話 探索

 ガラリと空いた会議室。嘉武は一体どうするものかと思考する。その一方、気にかけられているとも思っていないイヴは適当な椅子にドスンと座った。


「あんたも座りなさいよ。さっきまで何話してたか説明してちょうだい」


「はいよ」と嘉武は席に着き、先程の会議内容と一応、ガヴァルドを殴り倒した事をイヴへと説明した。仕事の話となれば、イヴは意外と真面目に話を聞いていた。最低限の情報だけで良いとの事で理解もかなり早い。普段から、様々な仕事・・・をこなしているのだろうか、女の子なのにと嘉武は少しイヴを憂いてしまう。


「要するに、あたしは厄介者を押し付けられたって事ね。ま、私は普段人を守る事は無いけど、仕事とあれば全力は尽くすわ〜。よろしくねヨシタケ君」


 イヴは調子良さげに手を差し出す。少し照れくさいが嘉武も手を出し、イヴの手を握る。


「僕もイヴさんの世話にならないよう精々頑張ってみるよ」

「イヴでいいわよ、あまり歳も変わらないでしょう?それに、いちいちさん付けしてると時間の無駄なのよ」

「あぁ、わかった」


 嘉武はマンハンターが故の職業病だと理解し、了承した。きっと、二文字呼びと四文字呼びでは緊急時の伝達に遅れが出るからだろう。

 それから、作戦が終了するまでの間原則として嘉武の行動は全てイヴによる監視が行われるらしい。ただ、「そういう行為は必要無い。あたしも面倒臭いし、あんたも四六時中見られてちゃ休まらないでしょ?」との提案があり、それはそれで良いかと嘉武は了承したが全力を尽くすとは一体何だったのか。彼女の言うことには重みを感じられない嘉武であった。


「それにしても、あんたって見かけによらずチンピラ何かとドンパチやっちゃうのね。何かまた、変な事でもしてたんじゃないの?」

「そんなはずは無いんだけどね・・・実際あの時は苦肉の策で反撃をするしか無かったから」

「そもそも一般人のあんたがあんな所歩いてるのがいけないのよ」

「それにも事情が・・・」


 言葉を濁す嘉武、決して自分の力を試す為などとは言う気になれなかった。


「まあいいわ、それじゃあ、これ渡しておくから。何かあればこうやって、この石に力を入れてみて」


 イヴは小石に力を込め、光らせる。小石からは僅かに光が溢れ、もう片方の手に持つ小石へと向かって光の粒子が流れる。こうして、互いの小石が発光し、方角を示し合う。これで居場所が分かるのだろう。


「これはあたしの力に反応するあたしの為の魔力オード石よ。無くさないでね」

「わかった、ありがとう。何かあれば使われてもらうよ」

 イヴから小石を受け取る嘉武。


「そういえば、オードってなんのこと?」

「そんな事も知らないの?魔力の事よ、ま・りょ・く!」

「ま、魔力ね、教えてくれてありがとう」

「あんたそんなことも知らないのね、どんな田舎なのよ。田舎だって魔法くらい使うでしょうに」


 イヴはやや呆れながら嘉武へ言い放つ。確かに、この世界において魔法を使わない人なんて居るのだろうかと嘉武は思ってしまう。


「ま、いいわよ。魔法に頼らない部族だって居るんだし、そんな感じでしょ?これから苦労するわね」

「あはは、そうだったかもね。これから魔法は覚えていくよ。それじゃあ、もう出よう」

「そうね、ずっとこんな所にいても息が詰まるわ」


 嘉武は会議室を後にする。まだ冒険者として依頼をこなすことはできないが依頼掲示板を少し覗いてみることにした。すると、近くの森には魔物が多く、討伐依頼が複数掲示されている。

(そうだな、昨日見つけたあの森にでも行ってみよう。きっと、魔物がいるはずだ)


 嘉武は全速力で森へと向かう、フレアを両手に展開し、ジェット機のように勢いをつければ移動もかなり早い。問題は飛んでいる際のバランスのとり方。両手の出力バランス、それに伴う身体のバランスを考え、感覚的に飛ばなければならない。結果、森へ着くまでに何度も墜落をした。そして、<MP>の事を考え、大半は走ることとなった・・・。


(多分フレアは移動に向いていないな・・・。出力と<MP>の消費が割に合わない。ここぞって時に使うなら結構アリかもしれないけど)

 森はそう広くはない。数キロ歩いた位で抜けることもできる。元々迂回するのがセオリーではあるが、この森を通行することができればかなりの時短となる。その為、人の通った形跡や轍によって何となく進むべき方向が理解できる。

 そして、森の中。常に何かから見られているような気配を感じる事ができた。嘉武はかなり複数の視線を感じる。

(ビシビシと気配を感じる・・・。森に入ってからずっとつけてくる気配は一際大きいな)


 チョロロ、とどこからか水の流れる音がする。喉の乾きを覚えた嘉武は音のする方へ進み、湧き水を見つける。

「これ、飲めるのかな?」


 水を少し手に取り、啜ってみる。

「意外といけるな!」

 嘉武は冷えた水を飲む。そして、背後へフレアを放つ。


 ボウゥッ!!


「うわぁっ!?」

 嘉武の背後から奇声が上がる。


「あれ、何だ、人でしたか」

「突然なんだよ!?どうやってあんな火柱を打ったんだよ」


 背後の気配が魔物ではなさそうだと思ってはいたが、万が一を鑑みて一応牽制した嘉武。結果として一人の冒険者を驚かせる結果となった。


「術式を埋めこんであります。それで詠唱短縮しているだけですよ」と嘉武はそれっぽく嘘を吐く。実際はただの無詠唱なのだが。

「な、何だよ。当たらなかったからいいものの、驚いたぜ。って術式?聞いたことねーな・・・」

「ははは、すいません。急に近づいてくる気配があったものですから」


 この冒険者はオルディスの街で活動しているカッパーランクの駆け出し冒険者。リーフと名乗り、今回はこの森に出るというボアファングという魔物の一定数の討伐に来たらしい。普段からこの森での依頼をこなしながら生計を立てている。森はもう庭であるかのように熟知しているとのことだった。


「僕は嘉武です。今はまだ冒険者では無いですが、近いうちに冒険者となる予定です。よろしくおねがいします」

「あぁ、よろしくな。んじゃ、俺も水いただくぜ」とリーフは筒を取り出し、水を汲んで行く。

「また、オルディスで会えるかもな。それと、この森にはオークも出る。足はそんな早くない。ヤバいと思ったらさっさと逃げろよな」

「そうですか、気をつけます」


(オークか、良いことを聞いたな。どこか、寝床のような所でも探そう。窪みなんかあれば分かりやすいんだけど)


 嘉武は早速オークを探す。おまけに女騎士でも居たら良いなと邪な気持ちを持ちながら。

 どうやら、この森は調査が行き届いているのだろう。注意看板が立て掛けてある。それを無視して進む。


(きっとこの先だろう)

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