第7話 作戦会議
穏やかな風が、全ての土煙を洗い流し、爆発跡が顕になる。
(地面に向かって放った訳でも無かったのにとんでもない威力だな・・・。ここから更に強くなっていったら一体どうなってしまうのだろう)
嘉武は大穴を見つめながら思考していた。
「うーっわ!しっかしとんでもない穴空けたわね?その辺で変に言い掛かりつけられても面倒臭いし埋めちゃいましょうか」
「ははは、そうですね」と嘉武は空返事する。
ちょっと離れてて、と少女は言うので嘉武は大穴から距離をあける。
「ウィンド!」と少女は魔法詠唱をする。それも手馴れた様子で複数の風を操り土砂を掻き集め大穴へと落とし込んでゆく。
(操作力や精度、感覚的な事ばかりはチートに頼れなさそうだな・・・)
嘉武は少し、気が遠くなる。元々器用ではなかったからだ。それでも本気を出して器用に努めようとしたことは無い。自分の伸び代を信じている嘉武でも、気持ちは多少陰る。それほど素晴らしい魔法コントロールだったのだ。
嘉武が見蕩れていると少女は言った。
「どうよ?あたしの天才っぷりは?」
「凄いよ、正直感動してる」
「ふふん、このあたしの魔法を見れて光栄に思う事ね」
少女がどこまで勘違いしているかは分からないが、嘉武は素直に感動している。
「もし良ければ少し教えてくれないか?」
「それはあんたが強くなってからにした方が良いわよ。時として魔法は身を滅ぼすの、そんな事も知らなかったりするわけ?」
「つい先日田舎から・・・」
嘉武はいつもの創作話をした。真面目に話していると言うものの、少女は終始田舎者とバカにしていた。
「まあ、事情はわかったけど、私が教えられることはないわ。天才過ぎて独学で使える様になっただけだし、何より感覚を誰かに教えるなんてやったことないもの」
「だったら先にそう言えよ・・・」と漏らす嘉武。結局天才と言いたいだけ何じゃないかと思う。
「何よ、そもそも人に聞いて何とかしようってのが傲慢な考えなのよ。それじゃあたしはオルディスに用事があるからそれじゃあね」
少女は何かを呟くと風を身に纏う。それから急加速、嵐のように過ぎ去っていった。
「・・・・・・僕も帰るか・・・・・・」
夕刻。オルディスの街を歩く嘉武。今日の晩はどんな物を食べようかと考えていた。
(和食なんて無いんだろうな・・・もっと食っておけば良かったな)
と後悔混じりにギルドへと向かう。夕方にまた顔を出して欲しいと言われていたからだった。
嘉武は扉を開き、シルフィの元へ行く。
「夕方、もう一度顔を出せと言われていたのですが」
「ええ、書留を預かっております。どうぞ」
「ありがとうございます、それでは」
書留を受け取り、そのまま食堂へいく。ガヤガヤとした中、食事を摂りながら封書を開ける。
(ん、例の作戦のことだ・・・)
「これはギルドからの司令だ。明朝、シルフィを通じギルド3階の会議室へ来い」
封書は端的に書かれていた。そして明日から忙しくなりそうだ、と嘉武は水を一気に飲み干した。
そして、会議室にて。
嘉武が到着する頃には何人かの冒険者、エルガーが待っていた。
「待ってたぜ、お前が噂のガヴァルド殺しだろ?」
陽気そうな冒険者が声を掛ける。
「そうかもしれないですね・・・」
(殺しちゃいないけど・・・)と嘉武は頭を搔く。
「てなことで、エルガーさん。キーマンも来た所だし、さっさと始めましょうや」
陽気そうな冒険者がエルガーへと提案する。エルガーも少し考えながら言った。
「時間も惜しい、イヴ・イシュタラストには遅刻癖があると聞いている。まあ良いだろう、会議を始める」
初対面の者が多く、まずは簡単な自己紹介から始まる。初めは今回の招集を企画したエルガーからだった。名前はエルガー・ゲイル、元冒険者。現職はオルディス冒険者ギルド長。今回の作戦に置いては指揮を執る。
次にエルガーの側近の騎士の様な出で立ちの男、ユーリ・アラスト。物静かそうではあるがかなり切れ者と見受けられる。現職は護衛。
そして陽気そうな男、ハイン・ドラッド。現職は冒険者である。オルディスの街に滞在している冒険者の中ではかなりの実力者で、階級はシルバーランクらしい。
そして、ハインの隣に座る男はイーミル。彼も同じシルバーランクの冒険者らしい。必要以上の事は語らず、この場でもほとんど静観している。
最後に美濃嘉武、現在無職。今回、作戦上囮として参加した後、冒険者の予定である。
その他にも協力する冒険者は居るみたいだが、今回はトップでの会議になるらしい。
今回、遅れてくるのは女性で名をイヴ・イシュタラスト。フリーで活動するマンハンターだとエルガーより補足される。
(マ、マンハンター・・・)と嘉武は物騒な肩書きに驚きを隠せない。
そして、今回はこの会議によってガヴァルド拘束作戦での役割を与えるために集まった次第である。元より決まっているのはユーリがギルド周辺を管轄、指揮官エルガーと通じる伝令を兼ねる事だけ。
ハインは街の表を、イーミルは裏路地に潜む事が決まった。そして、消去法ではあるが嘉武の護衛に着くのはイヴに決まる。
「ヨシタケも、俺らみたいな男より女の子と一緒に居た方が良いっしょ」と短絡的な考えに引っ張られて確定してしまった。 それでも意義のある者は少ない。実際イヴはかなりの実力者。マンハンターをやっているだけあって人の気配には敏感だろうと囮の護衛にはかなり向いていると思われたからだ。
決議を取り、満場一致の異議なしとなった所で会議室の扉が勢いよく開かれる。
「すっいませーん!遅れましたー!!」
聞き覚えのある声が嘉武の耳に入る。昨日に続いて、今日まで・・・?いや、これから・・・?嘘だろ、見覚えのある金髪に所々映えるピンク色。
(あいつだーーーーーっ!!昨日の自称天才女ーー!!)
嘉武は顔を背ける。だがもう避けようが何をしようが意味を成さない。嘉武の護衛は彼女、イヴで ・イシュタラストで決まってしまったのだから。「遅れすぎだろ、もう会議終わっちまったぞ」とハインが反応する。
「えーっと、じゃあエルダーさん、それで、私は何をする感じになったんです?」
「エルガーだ、イヴ・イシュタラスト。遅れてきた事はいい、そして今回貴女に依頼したいのは囮である美濃嘉武の守護だ。絶対に死なせてはならない」
「ありゃ、エルガーさん、ね。ま、それくらいならお安いもんよ!で、その囮は何処にいるのよ?」
こいつこいつ、とハインが指を指す。その先にいたのは昨日の大爆発を起こした鈍臭そうな田舎者。
「プススス!!チンピラにまで目をつけられてる鈍臭ってあんただったのね!?本当に鈍臭かったのねー」とケラケラと笑うイヴ。
「なーんだ、お前ら知り合いだったなら話は早いよな、んじゃ解散解散!」と手を叩くハイン。
「知り合いという程では・・・」
「それじゃあ、作戦開始まで現場視察してくるよ」とイーミル。
「二人が知り合いで助かった。俺は次の打ち合わせに出るからあとは任せたぞ」とエルガーに続き、ユーリも静かに着いていく。
「だから、決して知り合いでは」
・・・・・・。
(これからこの煩い子が僕のボディガード?男が女に護られるなんてダサすぎやしないか・・・?)
じゃじゃ馬と共に取り残される嘉武。誰一人嘉武の意見なんて聞きやしなかった。
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