第6話 大爆発

 同日、昼を過ぎた頃嘉武は装備を買いに行く為、武器屋、防具屋を訪ねたものの「聞き及んでおります」と最安値とはいかないもののそこそこの安物装備を与えつけられ、ゲンナリとしていた。腰には片手で扱う長剣、防具は急所をしっかりと守ることに重点を置いたような身軽な装備。それでも多少の重みは感じるが、命を守る為の重みなのだから仕方がない。

(安物でも良いけど、せめて自分で選べたら気分も良かったんだけど。あ、そうだステータスはどうなったんだろう)


 嘉武はステータスオープンと念じ自分のステータスを確認するが<S>が15,<V>が30増加しているだけだった。それでもないよりは合ったほうがマシかと言い聞かせ、己の力の確認を行うため街の外へ出ることにした。昨日嘉武を心配してくれていた門番は暖かい目で見送ってくれた。


 嘉武は人目が付きにくい場所まで歩いたら走り出す。風を切る音がヒュウヒュウと心地いい。ステータスの増加分、速度は結構ましていて、止まることも難しいと思われるが、脚力事態も強化されているので体の自由はかなり効く。思い切り跳ねてみた所、軽く5メートルは浮き上がった。草原を見渡してみても、魔物の姿は見えない。

(十分だ、後は魔法を使えるのか試してみよう。詠唱呪文は全くわからないからイメージしていくしかないよな)


 このような世界、転生者のメリットとして発想の豊かさが挙げられる。それ故無詠唱による魔法発動が可能だと嘉武は知っていた。


 まずはやってみて感覚を掴んでみようと思い嘉武はイメージを膨らませ手の内に力を込める。

「フレア!」


 嘉武の声と同時に放たれたのは真っ赤な炎の火柱。掌に合わせて火柱を操ることができる。力を強めればかなりのリーチが効く。ただ、しばらくすれば多少の消耗を感じ、嘉武はフレアを解除した。


「使い方しだいで剣に付与できそうだな。さて、次だ」


 やっぱり魔法と言ったら遠距離だろうと気分を良くした嘉武は遠距離魔法をイメージし、手の内に力を込める。あえて、これと言ったイメージを持たず、自分の適性を見極める。その時、とてつもない虚脱感とともに引き起こされた現象は衝撃波。


 ドドドドオオオォォォォンッッ!!!!


 と轟音を鳴らせ、目の前の草原、小さな山が只々吹き飛ぶ。土や岩、木々が大嵐を圧縮したかのような止まない轟音、衝撃に砕かれ吹き飛ばされる。辺りに巻き散らかされてゆくそれらの残骸。魔法を放った嘉武でさえ発動と同時に吹き飛ばされてしまったほど。目の前に生命が存在しなかったことだけがただただ幸運であった。

 そして嘉武は吹き飛ばされた衝撃による自傷ダメージが入ることを学んだ。次からは自分には当たらないようしっかりとコントロールしていかねばならない。嘉武は<V>が十分に高かったが故に起き上がれないほどではない痛みで済んでいるのだろうと思った。


「っつー、こんなことになるなんて思ってもみなかった・・・。僕の適正、一体どうなっているんだ・・・。本気を出していたらただの自殺になるところだったぞ・・・」


 嘉武は力の加減がこの難しい衝撃波を当分使うことは控えることとし、ステータスを確認した所、<MP>が8割持っていかれていることに気づく。

(戦闘中に暴発なんてしたら大変だな。何より、通常使用には向かない。虚脱感によるタイムラグが生まれてしまう)


 それに、ここで力を使い果たし空ケツになることは幾らこの辺に魔物がいないとはいえ、愚行である。


「痛覚がある以上、結構気を使うなこの魔法。でも、不思議とフレアのときは熱くなかったし、カバー仕切れる出力であれば難なく扱えるということなのだろうか・・・」


 そんな、衝撃波による土煙はまだ薄らと残っている。その時、一人の少女が事態を確認しにきた。


「ちょっと!さっきの爆発は何!?魔物相手だからともいってやりすぎなんじゃないの!?」


 威勢のいい元気な声が嘉武の背後から聞こえる。声のする方を振り返れば金色の髪にピンクのメッシュが入った派手な髪色をしたサイドテールの少女。身なりを見て、冒険者、あるいは、と推測する。


「調整をミスしてしまいました」と情けなく笑う嘉武。

「んー、どんくさそうね。爆薬の調整くらいしっかりしなさいよ、自分の身を滅ぼすわよ!私みたいな”天才”じゃないんだから」


 すっかり爆弾使い認定をされる嘉武。だが、それでいい。ただそれよりも少女の付け足したような”天才”アピールが気になってしまう。たいていこういうキャラはろくな展開を生まない。できることなら嘉武は厄介事ルートは避けていきたいのだ。

(さて、どう言い訳しようか・・・)


「何ぼーっとしてるのよ!あんた大丈夫なの?」と少女が嘉武の顔を覗き込む。整った可愛らしい顔に嘉武の思考は止まってしまう。

「か、かわ、じゃなくて、僕は大丈夫です。ご心配おかけして申し訳なかったです、どうかお見逃し下さい」

「は、皮?まぁ、あたしは別にいいんだけど、紛らわしい事するなら気をつけてよね。最近じゃこーんな長閑なオルディス周辺ですら変なヤツらが出るって聞いてきたんだから」


「以後気をつけます」


 思わず可愛い、と言いかけた嘉武。気を取られそうになりながらも持ち直した。

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