第13話
「・・・わかってる!わかってる!お前が俺のところに来て、記念撮影することを知らせてくれたのは、覚えてる。俺が勝手にしろと言ったことも、俺は覚えてる。俺は、だぞ。・・・でも、お千代は山田が俺のところに来たのを知らないと言ってるし、お千代は、お前たちが勝手に写真撮影に応じたと思って、カンカンに怒ってる」
牧場主さんの声は、だんだん小さくなっていきました。
「社長」
山田さんも座りました。
「おれが社長のところに行ったとき、大きな犬・・・じゃなかった、お千代さんいましたよ。『あんな非常識な女と一緒に写ったら非常識がうつる』ってキョーコさんに言えっておれに命令したんスよ。うちの恥になるから、そんなことはキョーコさんには伝えませんでしたけど。あのときのことは頭に血がのぼっていたから、あちらは覚えてなかったのかもしんないけど、社長たちに何も言わずに写真撮ってもらったわけじゃないスから」
珍しく、山田さんの声は怒っていました。牧場主さんは、うつむいたまま山田さんの話を聞いてました。
「おれ一人が怒られるなら、これから怒られてきますよ。でも、みんなを巻き込むのは止めてください!」
突然、山田さんが立ち上がりました。驚いて、牧場主さんが顔を上げました。
「おれは、この牧場大好きです!だから、動物たちをいじめるヤツは、オオカミであっても許しません!」
私たちは一斉に地面を鳴らして、山田さんを称えました。ちえちゃんさんは「おー」と小さい声で驚いてました。山田さんは恥ずかしそうに笑いました。
「・・・だよな」
牧場主さんは肩を落としました。
「山田の言ってることは間違ってないよ。俺も聞いてた。お千代がキョーコちゃんっていう子と写真に写りたくないって山田に言ってたのをさ。だけど、お千代はそれすら覚えてないって言ってるんだよ。たぶん、自分抜きで撮影された写真が雑誌に載ったことのショックだと思うんだよ・・・。お千代は、誰一人自分に声をかけてくれなかったことが許せないみたいで、みんなを反省させるために2週間、みんなの餌の量を半分に減らすって言ったんだよ」
「えーっ!」
私たちは、ちえちゃんさんが耳をふさぐくらい大きな声で抗議しました。
「アタシを殺す気?」
花子さんが、前足で地面を強く叩きました。振動か砂埃か、牧場主さんは座ったまま、じりじりと後ろに下がりました。
「山田が謝ってくれれば、丸く収まると思っていたんだが・・・。それじゃ、山田に嘘をつかせることになるもんな」
牧場主さんが小さな声で笑いました。泣いているように見えました。
「なんだ、社長。そういうことなら、おれ、全然、謝れますよ」
牧場主さんが、目を大きく開いて山田さんを見ました。
「おれが、お千代さんに『どうもすみませんでした~』って頭下げれば、みんなのご飯はいつもどおりの量になるんですよね。だーったら、おれ、謝りに行きますよ!」
私たちは再び地面を鳴らし、山田さんを称えました。
「ありがと~、山田さん。アタシを殺さないでね~」
花子さんが鼻で山田さんの肩を軽く押しました。山田さんは「うわあっ!」と大きな声をあげて牧場主さんの前に倒れました。
山田さんが「かっこよく決めたのに~。こんなコケ方じゃ、かっこ悪いじゃん」と花子さんに言いました。
牧場主さんが、笑いました。
私たちも、笑いました。
ちえちゃんさんも、笑いました。
こんなふうにみんなで笑ったのは、本当に久しぶりのことでした。
お千代さんが近づいているのに気がつかないくらい、大きな声で笑いました。
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