第10話
「そんなあ!私、あのときのお礼もちゃんとしていないのに・・・」
キョーコさんは床に座り込み大きな声で泣きじゃくりました。色白の女性がゆっくりとキョーコさんの側に近寄りました。優しくキョーコさんの背中をなでながら
「キョーコちゃん、おじさんからの手紙、私、読んでいい?」
と、キョーコさんの手から手紙を取りました。
お元気ですか?
あなたがこの手紙を読むころには、私はこの世にいないと思います。これは、天国にいる私からのメッセージだと思って読んでください。
あなたはヒツジのように真っ黒になってもがき苦しんで、モデルという夢を叶えました。今のあなたは、ブラックジョンよりも美しい黒髪をなびかせながら、たくさんの人に「こんな私でもここまで来れた。だから、あなたにも出来るんだよ」というメッセージを発信されていることでしょう。今のあなたは、とてもまぶしいですよ。
残念ながら、サンデーサーカスはあなたと出会った次の年に閉園しました。私が病気になり、動物たちの世話が出来なくなったからです。あなたと出会った5年後に、あなただけを招待してサーカスを行う約束をしましたが、私の勝手な都合でその約束を破ってしまいました。忘れていたわけではありませんよ。本当にごめんなさい。
一つだけ、あなたにお願いがあります。
かっこ悪い人間にならないでください。
あなたの活躍、天国から応援してます。
サーカスのおじさんより
追伸 お時間がありましたら、サーカスの仲間たちに会ってやってください。スタッフも動物たちも、みんな、あなたのことを待ってますよ。私がサーカスの動物を殺したと言われているようですが、それがウソだということは、あなたの目の前にいるヒツジが証明してくれるでしょう。
色白の女性は、声に出して手紙を読み終えると
「キョーコちゃん、よかったね。おじさん、喜んでるじゃない」
と言って、手紙をキョーコさんに戻しました。
「動物って、殺されてなかったんですねー」
背広姿の男性が、小さな声で言いました。
「そうです。お父さんは、動物を殺すような人ではありません。本当に、動物が大好きな人でしたから」
「どうして、動物が毒殺されたなんて噂が出回ったんスかね?」
山田さんが誰に尋ねるわけでもなく、つぶやきました。
メリーさんが答えにくそうに下を向きました。
「このヒツジって、サンデーサーカスにいたヒツジだったんだ」
背広姿の男性が私のところに近づいてきました。
「覚えてる、覚えてる。ヒツジのスケボー。4本足でスケボーに乗って空宙返りとかすんの。2本足で立って、場内をわかせた後は、クッションタイプの壁にぶつかって終わり。かっこよく終わらないところが、ヒツジのキャラというか・・・。愛嬌というか」
男性は、懐かしい友達に会ったような目で私を見ました。
「オレ、見たかったなあ。シープちゃんのスケボー」
「アタシも」
山田さんとちえちゃんさんが言いました。
「面白かったんですよ。シープちゃんのショーは、子供たちがいつも笑ってました」
メリーさんが笑いました。
「僕はそのとき、大学生だったけど、笑ったなあ。サンデーサーカスって、動物が一生懸命なんだよね。ヒツジが壁にぶつかってひっくり返ったところに、黒い犬がやってきてヒツジを起こすんだ。その様子がなんとも、コミカルでね。ヒツジが退場するときに、笑いと拍手が同時に起こってね。人間で言ったら、体を張ったお笑い芸人ってところだね」
背広姿の男性の話を、山田さんもちえさんも目を輝かせながら聞いてました。
「体を張ったお笑い芸人っていうのは、今でも変わらないね」
山田さんの言葉に、ちえちゃんがクスッと笑いました。遅れて、モー太郎さん、きいちゃん、チッタさんも笑いました。
「あの!みんなで写真撮りませんか?」
目を真っ赤にしたキョーコさんが、精一杯笑いました。
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