第9話

「おじさん、ブラックジョンが捨て犬だったことを教えてくれました。保健所で殺されそうになったところをおじさんが助けてサーカスに連れて行ったって」

「そうです。ジョンは、自分を捨て殺そうとした人間を恨みました。何度もお父さんを噛みました。その度に、お父さんは言ったんです。『お前を捨てた人間が捨てたことを後悔するくらいの犬になれ。悔しかったら見返してみろ』って。お父さんは自分を殺さないとわかったジョンは、猛特訓してサーカスで一番人気のある動物になりました」

「ブラックジョンは、心の優しい賢い犬だって、おじさんが言ってました。私が悩みを抱えていると気づいたのはブラックジョンだそうです。自分が深い悲しみを経験したからこそ、相手の痛みとか苦しみがわかるんだって」


メリーさんが「キョーコさん、ちょっと待ってくださいね」と言って走って部屋を出ました。


「シープちゃん。ブラックジョンって黒い犬なの?」


山田さんが質問しました。


「はい。黒い犬です」

「オオカミみたいに黒いの?」

「あ・・・、はい。いえ、オオカミとは違いますよ。えっと、その・・・」

「自分のこと、美人過ぎるって言わないでしょ?」


きりんのきいちゃんとチータのチッタさんが笑いました。象の花子さんが


「アタシも美人過ぎる象で雑誌デビューしちゃおうかなあ」


とあくびをしながら言いました。大きく鼻を伸ばしたので、キョーコさんと色白の女性が「おお」と声を上げてのけぞりました。


「キョーコさん!これ、お父さんからの手紙です。キョーコさんに会ったら渡してほしいって頼まれてました」


メリーさんから渡された白い封筒を、キョーコさんは目をパチクリさせながら受け取りました。


「あ、あの・・・」


色白の女性がメリーさんに話しかけました。


「サンデーサーカスってなんですか?知らないので教えていただきたいんですけど」

「あ、それなら、僕が説明しますよ」


背広姿の男性が、色白の女性に答えました。


「サンデーサーカスって、動物たちが玉乗りしたり空中ブランコに乗ったりするサーカスなんですよ。動物がサーカスの団員ってところかな。人間もきらびやかな衣装を着ているんですけど、演技はあまりしません。人間と黒い犬との空中ブランコは見ごたえがありましたよ。日曜日にしかサーカスをやらないからサンデーサーカス。何年か前に、サンデーサーカスは解散したんですよ。噂では、動物たちは団長が全部、毒殺して・・・」

「あ、それはですね」


メリーさんが説明しようとしたとき、キョーコさんがメリーさんに向かって叫びました。


「ねえ、おじさんは?おじさんは!」


メリーさんは、ゆっくりと答えました。


「お父さんは・・・亡くなりました」

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