第8話

「鹿児島へ帰ろうと決めた次の日に、サンデーサーカスの前を通りかかったら、なんとなくテントに入ってしまって。ショーが始まる前だったのか、お客さんは誰もいなくて、動物たちがたくさんテントの中でトレーニングみたいなことしてました。ぼんやりと動物たちを見ていたら、おじさんが声をかけてきました。『見てごらん。あのヒツジ。何度も失敗して。ドンくさいだろう?』って。そのとき、ヒツジがちょうど、スケボーから落ちてました」

「あんた、昔っからドンくさかったんだね」

「モー太郎さん、声が大きいです。みんなに聞こえちゃいます」


みんながどっと笑いました。メリーさんも、山田さんも笑ってました。ちえちゃんさんは、山田さんから話を聞き


「シープちゃんって、ご飯食べてるだけじゃなかったんですね~。スケボー乗るんだ」


と感心してました・・・。キョーコさんは話を続けていました。


「私が、スケボーから落ちたヒツジを笑ったら、おじさんがこう言ったんです。『あのヒツジに、もっともっと真っ黒になれ。あとでオレが真っ白に洗ってやるからな。と言ってるんだ』って」


キョーコさんは、私をじっと見つめました。


「あのときのヒツジが、ここにいたんですね」


キョーコさんは私に近づき、山田さんに触っていいか尋ね、私の頭を軽くなでました。


「おじさんが『失敗することはかっこ悪いことじゃない。努力しないほうがかっこ悪い。がむしゃらに頑張ることは、実はかっこいいことなんだ』と言ったとき、このヒツジが走るスケボーの上で二本足で足ったんです。人間みたいに。私・・・なんだか、感動しちゃって」

「覚えてます。シープちゃんがスケボーに乗れた日のこと。キョーコさん、泣いてましたよね。あの時、私、キョーコさんの近くにいて、見てました」


メリーさんがキョーコさんに言いました。


「・・・はい。ヒツジが真っ黒になってスケボーの練習してるのに、私はちょっと方言を笑われたくらいでモデルを辞めようなんて。ヒツジ以下だなって思いました。鹿児島の人は、桜島の灰をかぶってもそれを払いのけて生きていくぐらい、たくましい人間なのに。今の私は、灰をちょっとかぶっただけで、弱気になっている。鹿児島の人間として恥ずかしいと思いました。私、おじさんに言ったんです。『私も真っ黒になるまでオーデションを受けなきゃ!でも、誰が私を真っ白にしてくれるんだろう』って」

「そのとき、お父さん・・・、あ、団長さんのことを私たちはお父さんって呼んでたんですけど、お父さんがキョーコさんに言ったんですよね。『あなたには、あなたを応援してくれるご家族とお友達がいる』って」


キョーコさんが目頭を押さえながらゆっくりとうなづきました。

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