第6話

「え?オオカミ?」


キョーコさんが、お千代さんをじっと見ました。


「この犬、オオカミって名前なんだ」

「キョーコさん。それは犬じゃなくて、オ・オ・カ・ミですよ」


背広の男性が小さな声でキョーコさんに説明しましたが、キョーコさんは


「貫禄あるなあ、オオオカミ」


と言いながら、携帯電話でお千代さんの撮影を始めました。


「社長さん、この犬、私のブログに載せてもいいですか?」


牧場主さんは口を大きく開けたまま、キョーコさんを見ていました。


「あのー、どうしてこういうことになっちゃったんでしょうか?」


色白でお下げ髪の女性が、背広の男性に小さい声で尋ねました。


「僕も、詳しいことはわからないんですけど。渋谷さんのところに、美人過ぎるオオカミの取材依頼が来たんですよ。メールじゃなくて、電話で。僕も、渋谷さんも旅館か相撲部屋の女将さんだと思い込んで、こちらに来てしまったというわけなんですよ」

「は、はあ」


色白の女性は口をポカンと開けて驚きました。


「じゃあ、ここは・・・?」

「牧場っすよ!」


答えを言いづらそうな背広の男性に、山田さんがとびきりの明るい声で答えました。


「オオカミがいる変わった牧場ってことで、記事にして・・・くれ、ませんよね~?」


山田さんの話し方が面白かったのか、キョーコさんが噴出しました。


「牧場にいる犬がオオオカミって、面白いですね。ほかに面白い動物って、いますか?」

「いますよー。面白いかどうかはわかりませんけど」


山田さんの合図で、私たちは1匹(1頭)ずつ待合室の中に入りました。


「ゾウの花子。大きいのだけが取り柄です。食べた分、寝てます。ロバのローバ、本当に婆ちゃんです。きりんのきいちゃん、かわいいでしょ?チーターのチッタ。大人しいですよ。触っても大丈夫。噛んだりほえたりしません。それから、牛のモー太郎さんに、ヒツジのシープ。牧場らしいっていったら、この牛とヒツジかな?こっち側にいるのはみんな、人間思いの心優しい動物たちです」


山田さんが私たちを紹介してくれました。


「へえ、みんなかわいいし、大人しい!」


キョーコさんが目をキラキラさせて私たちを見ました。


「で、オオカミが番犬なんですね」


キョーコさんの言葉に、山田さんは「うまいこと言いますね」と答え、モー太郎さんは「いつか、飼い主の手を噛むのかな」とつぶやきました。

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