第2話

「山田さーん!」


突然、控え室のドアが開き、冷たい風と共にちえちゃんさんが入ってきました。ちえちゃんさんは、アルバイトの飼育員です。小さくてかわいい女性です。私たちの言葉は全然わかりません。でも、いつも、私たちに笑顔で話しかけてくれます。


「今、雑誌社の方が来てるんですけど!美人過ぎる女将を取材したいって。この辺に旅館ってありましたっけ?」

「今、番頭が席をはずしてるから待合室でお待ちくださいって、いっときなよ」

「え?ば、番頭?」

「ごめんごめん。オレ、真面目になるって、さっき、ちえちゃんに言ったばかりなのに、また、ふざけちゃったね。オレ、社長呼んでくっから、ちえちゃん、お客さんを待合室に案内しといて!」

「え?お客さんって、雑誌社の方ですけど?それも・・・美人女将の取材で」

「それがさ、写真撮られるのは女将じゃなくてオオカミなんだよ」


山田さんはわざと「オオカミ」と大きな声でちえちゃんさんに言いました。


「大女将?え・・・、オオカミ!?」


ちえちゃんさんは、慌てて口を押さえると


「山田さーん、冗談言ってると、ふざけるなって社長に怒られちゃいますよ」


にっこり笑い控え室を出ました。


「オレがふざけんてんじゃねーんだよ!アイツがふざけたことしてんだよ!」


山田さんは床にたたきつけた帽子をモー太郎さんにかぶせると、「あーあ」とため息ついて控え室を出ました。


「山田、大変だな。人間関係のストレスから逃れたくて飼育員になったのに、動物に振り回されてストレス感じてんだもんなー」


モー太郎さんと2匹で「人間って大変」と言いました。

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