羊が一匹 ~美人すぎる騒動~

たえこ

第1話

羊です。


「あのさ、美人過ぎるって言葉、どう思う?」


まだ空気が冷たい昼休み。控え室で暖をとっていたら、牛のモー太郎さんが話しかけてきました。


「美人過ぎる、ですか?美人って人間に使う言葉ですよね。あ、メリーさんのことですか?」


メリーさんとは、この牧場のスタッフ(人間)です。以前は、私と同じサーカスに所属し、歌を歌っていました。歌がとっても上手なんです。今でも、歌手になることをあきらめていないと思います。


「そうだよな。フツー、そう考えるよな?」


モー太郎さんは大きくうなづきました。


「なんでも、人間の真似をすりゃあいいってもんじゃねーのにさ」


私とモー太郎さんの間に、山田さんが入ってストーブにあたりました。山田さんも、この牧場のスタッフ(人間)です。いつもエサをくれたり、宿舎を掃除してくれたり、私たちと遊んでくれます。私たち動物の言葉がわかります。メリーさんも私たちの言葉がわかります。でも、私たちと一緒に遊んだりおしゃべりすることはありません。メリーさんは、オオカミのお千代さんの側にいます。それはメリーさんの意思ではないことを私は知っています。そして、メリーさんがお千代さんから逃げたがっていることも。


「ヒツジ的に、美人過ぎるオオカミって、どう思う?」


山田さんが私に尋ねました。モー太郎さんは下を向いて「ヒツジ的って」と笑いをこらえていました。


「優しすぎるオオカミ、つまり、怖くないオオカミはいないと思います!」

「よく言った!シープちゃん、おやつにミカン2個増やしてやるよ!」

「わーい!」

「俺は、あんたみたいなおつむになりたいよ」


モー太郎さんがそういって、尻尾で軽く私をたたきました。


「お千代さんが、どうかしたんですか?」


オオカミという言葉が出たので、私は、山田さんとモー太郎さんに聞きました。


「美人過ぎるオオカミなんだって、アイツが」


と、声を潜めて話す山田さん。


「どこかの雑誌に連絡したらしいよ。この牧場に、美人過ぎるオオカミがいるから、取材に来いって」


と、小さな声で話すモー太郎さん。


「美人過ぎるオオカミ?取材?何のためにですか?」

「この牧場のために、一役買ったんだってさ。美人過ぎるオオカミを雑誌で取り上げてもらって、この牧場の集客数を増やすんだってさ。ていうか、アイツ、自分が目立ちたいだけだろ?」


山田さんの言葉に、モー太郎さんは「モー」と小さな声でため息をつきました。

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