5


 翌朝、リムに化けたラウニは見事に演じ切っていた。

 バーバラすら、それがリムと信じているらしく、ハルミラは少しだけ苛立っていた。


(どこが一緒なの。リムはこんな風に笑わない)


 そうは思ったが、リムの安否がまだ不明で、いる場所もわからない。

 彼女は極力普通の態度を心掛ける。


 朝食はセノを交えたもので、ハルミラは彼やアウグに隣に立つ人物が本当のリムではないことに気がついてほしいと願っていた。けれども、二人の態度は変わらず、歯がゆい気持ちが募る。朝食の後は、ハルミラは孤児院訪問が決まっていたが、セノの要望で彼も同行することになった。

 そのことにハルミラは少しだけほっとして、朝食を終えると自室に戻る。ラウニは当然のごとく彼女に同行し、休まる気がしなかった。



「……あの偽者。素直だよね」

「本人より素直かもしれませんね」


 部屋に戻ったセノとアウグは、リムに化けたラウニをそう評す。


「マルク。君を孤児院に連れて行った神官の名前わかる?」

「すみません。名前までは……」

「そっか。残念だけど。まあ、偽者だってわかったからいいかな」



 朝食のために広間に向かったセノは、偽者のリムがマルクを凝視しているのを見ていた。気が付かない振りをセノもアウグもしていたが、本物のリムであればマルクがセノの傍にいることを知っているので、驚くはずがなく、偽者だと確証を持たせることになった。

 しかもマルクから、火の神官によって孤児院に入れられたと聞いているので、その神官がリムに化けているという可能性にも行きついた。


「孤児院に僕が行きたいって言った時の彼女の表情も見物だったね。もしかして、本物はそこにいるのかな?」

「……孤児院はそんな悪いところをするところには見えなかったです。確かに自由はなく飯はまずかったけど」

「マルク!」


 意見をしたマルクをアウグが叱咤する。


「アウグ。そんな風に叱るのはだめだよ。正しいと思ったことを話すのは大事なことだから。僕は暴君にはなりたくないしね」

「セノ様……。マルク。悪かったな」

「そんな、俺こそすみません」

「さて。マルクには悪いけど、あの偽者の態度から、やっぱり孤児院のことは疑わずにはいられないんだ。だけど、何があっても子供たちは守るようにするから。ね、アウグ」

「はい。承知しております」

「お、俺も同行してもいいですか?」


 声をあげたマルクをセノとアウグが見る。


「……駄目だと言いたいところだけど、君が僕たちから離れるほうが危険そうだからね。君は村の惨劇の生き証人なんだし。いいよ。でもアウグから離れないように。……アウグ。僕は自分で身を守るから。王女とマルクのことを頼むよ」


 セノの言葉にアウグは頷かない。


「アウグ」

「それは承知かねます。俺は、セノ様を中心に、王女とマルクを守る予定です。あのリムを先に見つけたいところですが」

「そうだね。まあ、忙しくなりそうだね」


 セノが苦笑して、マルクの頭を撫でる。

 そうしてしばらしくすると孤児院への訪問時間がやってきたと、使用人が知らせ来た。

 一行は戦いに出向く気持ちで部屋を後にする。



「あなたは誰なの?」

「火の神官ですよ」


 馬車の中で、ハルミラの向かいに座るラウニはそう答える。

 広間から戻ると彼女は落ち着かないようで、何度も手を組んだり、離したりを繰り返していた。バーバラさえも今日のリムの様子がおかしいというくらいだったので、かなり動揺しているようだった。


(何があったのかしら。今朝部屋に訪れた時、食事に向かう前は太々しいほどリムの振りをしていたのに)


 「どうして裏切ったの?」


 動揺している今なら何か情報が得られるかもしれないと、ハルミラは続けて質問した。


「私はリムが大嫌いなんですよ。だから裏切りに加担したんです」

 

 彼女――ラウニはそう吐き捨てた後、窓の外に目をやった。


(意味がわからないわ。リムのことが嫌いってことは……大丈夫なのかしら。ひどい目にあわされてるかもしれない。リム……)


 急に心配になり、ハルミラは膝に乗せた両手をぎゅっと重ねた。


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