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「……信じられないわ。だってそんなこと!」
話を聞き終わり、ハルミラが最初に漏らした言葉がそれであった。
「ふん。別に信じたくなきゃ、信じなきゃいいさ」
少年は顔色を変えた彼女を嘲るように言い放つ。王女に対する不敬罪、本来ならリムが口を挟む場面なのだが、ハルミラ同様彼女も唇を噛みしめ、先ほどの話について考えていた。
村人の命、生活に構う事なく行われる戦い。
神官たちの戦いはそれこそ神の力を使う。火で焼かれる畑、氷の礫や矢で無残にも壊される家屋。巻き込まれて命を失う村人もいたようだ。
兵士たちはそんな神官を遠巻きに、離れた場所で戦っているようだった。
「確かめなければ……」
先輩の上級神官たちの顔を浮かべ、自然とリムはそうつぶやいていた。
「そうよね」
「俺の話を疑うのか!」
「そんなつもりはない。だが、自分の目で確かめたいんだ」
「勝手にしろ。その前に俺のことは開放しろよな」
怯えていたのが嘘のように少年は横暴な態度を示すが、彼の村を荒らした者が同じ神官だと思えば叱ることも躊躇する。
「それはまだよ。事の真偽を話してもらってから。先ほど店主が言っていたことは本当なの?」
「……本当だ!神官の奴らが俺の村をぐちゃぐちゃにした詫びか知らないけど、王都の孤児院に俺を入れたんだ。だけど、全然自由じゃないし、だから逃げ出したんだ。そんで腹が減って」
「どういうこと?自由がないから逃げ出して盗みを働く?それってあなたが悪いだけじゃないの!」
「俺のどこが悪い!神官の奴らが村をめちゃくちゃにしなきゃ、俺はこんな王都になんて連れて来られなかったんだ!神官、お前らが悪いんだ!」
少年はリムを指さして罵る。
「それとこれは別問題でしょう?あなたを開放してあげる。だけど孤児院に戻りなさい」
「嫌だ。おい、あんた。国境にいくんだろう。俺も連れて行ってくれ。村に戻りたいんだ。無理やり神官に連れてこられたけど、今の村の様子を知りたい」
「なんて自分勝手に……。あ、でも……。ベン、国境沿いに行くなら私も連れて行って。実情を知りたいわ」
「は?え?それはなりません。少年、お前のことは私が責任を持つ。だが、ハ、バーバラのことは別だ」
「どうして?あなたは私を置いていけないわよ」
ハルミラは悪だくみをする笑みを浮かべて、リムを仰ぐ。
少年は二人のやり取りについていけず、また何やら曰くがあるような二人の様子に、状況を見守ることに徹した。
*
翌日、またもやバーバラに変化したハルミラ、そして同様にベンに変化したリムは孤児院に来ていた。昨日少年――マルクを孤児院に送り、本日迎えに行く約束をした。
昨日のうちに孤児院に送る前に、店主たちには詫びを入れさせている。
「少しだけ見るだけですからね。遠くから」
「わかってるわ」
本来ならば一人で、またはマルクと二人だけで国境に行きたかったのだが、ハルミラが大神官に相談すると脅しをかけて、リムは仕方なく彼女を同行させることにした。
王都の街を抜けたら森が続くので、そこからは空を飛んでいく予定だ。ハルミラとマルクを馬に乗せて国境まで移動するには時間がかかりすぎて、宮殿に翌朝まで戻ることは不可能だ。そこで街のはずれまでは馬で、そこから飛ぶことに決めていた。
「約束は守るんだな」
孤児院入り口で待っているとマルクが出てきて、減らず口を叩く。
マルクの態度は王族に対して不敬罪に値する。けれども身分をばらさないと決めた王女の言葉に、リムは従い発言は聞き流すことにしていた。
ハルミラもマルクの生意気な態度を気にしている様子もなかった。
「当たり前でしょう」
胸を反らして答える彼女は得意そうで、たわわに揺れる胸に少年マルクの頬がほんのり赤らんだ。
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