4・雨宮健司

 俺の望みは叶えられた。

 小僧の機転で里崎の殺人やマネロンが暴かれ、当然逮捕された。もはや、ばらまいてきた大金で作ったセーフティネットも機能しなかった。むしろ、金を受け取った権力者たちはヤツとの関係を暴かれることを恐れて、さっさと死刑にして知らんぷりを決め込む方向へ動き始めた。

 世の中、そんなもんだ。風向きなんて、一瞬で変わる。

 ただ、俺に追い風が吹いたことはなかったが……。

 嬉しいこともある。里崎の事務所や舎弟の証言から副業でやってた振り込め詐欺が暴かれ、だまし取られた金が一部分回収されたことだ。被害者も多かったから大した金額にはならなかったが、妻と息子にもいくらか返されることになった。戻る金は20分の1以下。それでも、ゼロではない。息子が大学を出るまでの資金としては充分だろう。

 妻は言った。

「お父さんをないがしろにしてきた罰は受けたけど、こうやってお金が少し戻ったのは天国のお父さんの力だと思うの……」

 息子は、涙をためてうなずいた。

 二人とも、俺を理解してくれたんだ。

 褒美はこれだけで充分だ。俺の誇りは満たされた。

 自分の力で、二人に金が戻るのを助けたんだから。俺が里崎を押さえなかったら、今頃ヤツは斎藤君を殺し、会社を潰して国外に逃げていただろう。

 それを食い止めたのは、俺だ。

 男同士で抱き合うような真似をしたのは、めちゃくちゃ気色悪かったが……。

 だが俺は、大きな事件を解決する力の中心に、確かにいた。あれ以来、妙な自信が湧いてきている。世の中が、生きている時とは変わって見える。

 世界は、こんなに汚い。それは身をもって思い知った。だが、知らないこともあった。それでも、同じぐらいたくさんの喜びもある、ということだ……。

 たぶん、自分が人の役に立てたからだと思う。幽霊になって始めて自信が持てたなんて、自慢できることではないが。

 あれ? それって、風向きが変わったってことか? 俺にもようやくチャンスが巡ってきたってことか?

 もしもそうなら、今しばらくは幽霊でいたいものだ。そして、妻と息子がこの先どんな人生を送るか、見守りたい。二人を害するものがあれば、それを取り除いてやりたい。精一杯、守ってやりたい。二人が、次の幸せを見つけ出すまで。

 幽霊の世界では、そんな望みは許されないものなんだろうか?

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