2・大垣直恵

 会長は、あたしたちみんなにご褒美をくれるって。

 子どもをみんな失ったのに、あたしたちに感謝してるって言った。

『それでも会社の建物は半分残った……一番大事な輪転機は、幸い無傷だった。再開が不可能なわけではない。君たちがいなかったら、全てがうやむやにされて、会社も終わってたところだ……』

 本気かどうかは分からない。一族がいっぺんに死に絶えて、しかも手を下したのも実の息子。ちょっと考えれば、最悪の状況だって分かるもんね。もっと言えば、自分を殺したのも実の孫。病気の苦しみから救ってくれたっていう一面はあるものの、手を下した理由は自分の欲を満たすためだし。

 あたしが会長の立場なら、死にたくなっちゃうな、きっと。って、子どもなんかいないし。しかもあたし、とっくに死んでるし……。

 会長も、もう死んでるから諦めがつけられたんだと思う。最低限、会社は守れたわけだし。そこに、人生を終わらせた意義を見出すしかないよね……。

 で、ご褒美。

 何がいいかなって考えたわけ。っていうか、考えるまでもなかった。生きているうちかからずっとやりたかったこと。

 美容整形に決まってるじゃん!

 韓国行って、K―POP並みの美形に直して、脂肪吸引もして豊胸手術もして……親から貰った身体を傷つけるなとか、同じ金型のサイボーグだとか悪口いう人も多いけど、そんなの構わない。見た目がキレイになれればいいんだよ。男なんて見た目でしか女を判断しないし、それが人生を左右するんだから。お金がない女はルックスでアピールするしかないんだって――って、夢見続けていたことを言ってみた。

 自分でもばかばかしいと思う。幽霊になってまで、なんなんだかな……。とっくに死んでるのに。死んでまで外見にこだわるなんて、惨めだったらないわよ。せめて死ぬ時ぐらい、自信を持って逝きたかったわよ……。 

 だけどキレイになりたかったんだから!

 せめて、生きてた時の劣等感を消したいんだから!

 でもさ、幽霊に整形なんてできるの?

 会長、あっさりと『いいよ』だってさ。

 あ、できるの?

 なんでも、若い時からの知り合いが韓国で有名な整形美容外科医で、最近死んじゃったんだって。相談だけなら簡単だってさ。ま、本当に手術が可能かどうかは分かんないけど。もうすぐ韓国行きの直行便が出るから、急げって。

 言ってみるもんだね――ってことかい?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る