第6話 作戦会議

 あれから、二度目の話し合いとなった今日。遠藤咲季と2人で、この前も話をした店にやって来ると、今後についての会議を行った。


「それで、私は何をすればいいの?」

「実は、もう既に色々と準備を進めているッス!」


 新しいバーチャルキャラクターを生み出すために、協力をしてほしいという彼女の願いを、私は引き受けた。それでこれから先、具体的には何をするの。そんなことを聞き出そうと思っていた。けれど、それよりも気になったのは。


「”ッス”?」

「あ、いや、あの……。ごめんなさい。変な話し方をしてしまって。これはアニメの影響で、普通とは違って、あの。ちゃんと普通にしようと思ってたのに……」

「大丈夫、謝ることじゃないよ。貴女の話しやすいように、自由に話してみて」

「あぅ……、でも……、えっと」


 少し気になった語尾について指摘すると、彼女は慌てた様子で弁明する。そして、途端に自信を無くしたのか表情を曇らせていた。申し訳無さそうに謝る彼女。別に、彼女の話し方が悪かった、というわけではない。初めて聞くような話し方で珍しいなと思ったので、繰り返しただけなのに。どうしようかな。


「落ち着いて。そんなに緊張するもんじゃないわよ。これから一緒にやっていく仲間なんだから」

「な、仲間ですか? 私たち」

「もちろん。嫌?」

「嫌、なんがじゃないです! 光栄ッス! 生まれて初めての仲間ッスよ!」

「なら、仲間らしく敬語も無しで話そうよ」

「あ、う」


 敬語を無くして対等な立場として話し合いを行おう、と提案する。彼女の表情は、歪んでいて苦しそうだった。仲間という関係に、あまり慣れていないのか。初めての仲間らしいし。


「は、はい。わかりました」


 覚悟を決めたようだが、まだ分かっていないかのような彼女の返事。緊張しているようだし、仕方がないか。でも話をするためには落ち着いてもらわないと、困るな。ということで、少し強引に話を進める。


「”わかった?”」

「あ。うん、わかった」

「うん。それで良いね」


 彼女には無理な話し方を止めさせて、ようやくスムーズな話し合いを行えるようになった。今までと比べて、数倍ぐらいは流暢に話してくれるようになった咲季。私が許可するまで、かなり無理な話し方をしていたらしい。


「これから呼び方も、咲季ちゃんって呼ぶよ。私のことも、真央ちゃんって呼んで」

「あーっと、うん。わかった、ま、真央ちゃん」

「良いよ、咲季ちゃん」

「ぁぅ……。あんまり慣れないけど、頑張るッス」

「その調子で行こう」


 ということで一気に距離を縮めていく。人間は、社会的動物らしい。こうやって、仲良くしておけば良いことがある。そんな打算的な考えも持ちつつ、彼女との関係を深めていった。


 そんなことよりも、バーチャルキャラクターについて詳しい話について聞きたいと思っていた。今までに触れてこなかった文化に、興味を持っていたので。


「えっと。じゃあさ、私の家に来て真央ちゃん」

「咲季ちゃんの家に?」

「うん。もう機材とか揃えてあるから。そこで説明したほうが、色々と分かりやすいと思うッス」

「わかった。咲季ちゃんのお家に、お呼ばれするね」



***



 ということで、やって来たのは学校から電車を乗り継いで通う距離に建っている、マンションの一室。ここで家族と一緒に住んでいるという咲季。だけど、夜遅くまで両親は仕事で家には帰ってこないらしい。兄弟や姉妹は居ない、一人っ子だそうだ。


「で、これが私の用意した配信の機材ッス」

「へぇ。凄い」


 咲季の自室。そこに置かれたパソコンやカメラ、マイク、その他にも沢山ボタンがついているモノ。見ただけでは何に使うのかも分からないような機械が、テーブルの上にギッシリと並べて置かれている。


「このパソコンは高スペックで、動画編集とかも出来るッスよ。配信用のソフトと、キャラを動かすためのソフトがバッチリインスール済みッス。すぐにでも配信が可能なんスよ。カメラは表情を読み取るのに十分な性能があるとネットで評判なんスね。キャラに変な挙動が起きないように、オートフォーカス機能もあって実際凄いッス。あとマイク! これはノイズ除去が最強で、入力処理して配信でクリアな音声を皆にお届け出来るっす。性能も良くて、コスパが最強だったッスよ。それから……」

「へぇ。ものすごく充実した配信環境、ってことね」

「ズバリ、そうッス!」


 目を輝かせながら、楽しそうに語る彼女。機材について、一つ一つ丁寧に説明してくれた。機械についてはよく分からないが、とにかく準備万端、ということか。


「ところで、これだけの機材を揃えるのは大変だったんじゃないの?」

「確かに、大変だったッスよ。ネットで募集してた在宅のアルバイトをして、貯めたお金で買い揃えたッス! でも真央ちゃんが来てくれたから、コツコツ揃えた機材が無駄にならずに済んだッス」

「え? 私が受けなかったら、どうするつもりだったのよ……」

「きっと来てくれるって、信じてたッス」

「直感に従って貴方の話を断らずに済んで、良かったわ」


 心の底から、そう思った。彼女の努力を無駄にしなくて良かった。というか、私の了承を得る前に機材を揃えていたのか。なんというか、思い切りが凄いようだ。


「じゃあ早速、配信に向けた作戦会議ッス」

「分かった。配信のことについて、私は無知だから。色々と教えて」

「任せるっす!」


 そして、用意していたという3Dのキャラクターモデルを見せてもらった。


「なるほど。これに私の動作をキャプチャーして、キャラクターを動かすんだね」

「そうッス。ちょっと試しに、動いてみるッス。カメラに向かって」

「こんな感じ?」

「オッケー、ッス。ちょっと調整してみるッスね」


 複数台あるカメラの前で、手を動かしたり頭を振ったりして動いてみる。すると、パソコンの画面に映っているキャラクターも連動して動いている様子が見えた。


 ただ、キャプチャーという処理が上手く行っていないのか、まれに変な挙動をする時がある。


「ん。ちょっと修正が必要、ッスね」


 動作を確認しながら、咲季はキーボードをカタカタと叩いていく。リアルタイムで修正しているらしい。すると徐々に、画面に映るキャラクターの動きが自然で、かつ滑らかになっているように見えてきた。変な挙動も無くなっていく。


「とりあえず今は、こんな感じで」

「こんな短時間の調整で、凄いね」

「後で、最終調整をするッス」

「了解」


 とても簡単なことだ、という風にすまし顔の咲季。調整中、画面には沢山の数値や入力する画面が表示されていた。あれを細かく設定して、映っているキャラクターを自然に動かすのか。それって、かなりの技術が必要なんじゃないだろうか。


 軽くこなす彼女はやはり、知識と才能がある優秀な人間なのだろう。


「何か、要望とかはあるかな?」

「要望?」

「キャラクターのデザインに不満がある、とか。今なら変更も出来るよ」

「うーん」


 ここは遠慮せずに言ってみるか。


「じゃあ、ちょっとこういう風にデザインを変更できるかな?」


 私は、前世の自分の容姿について咲季に説明する。その情報を、取り入れてもらうために。


 角の形、髪の色や肌の色。細かい顔のパーツについて決めていく。ちゃんとメモを取り、真剣な表情で私の話を聞いてくれた。生まれてはじめて、人に話した。


「分かったッス! それぐらいの変更なら、明日までに出来ると思うッス」

「ホントに? 早いのね」

「任せてください、ッス」


 そして彼女の言う通り、翌日に変更が加えられたデザインが完成していた。


 私の要望通り、アニメキャラっぽくデフォルメされているけれども、前世の記憶が蘇ってくるような懐かしさを感じる見た目に完成していた。大満足だった。


 こんな風に話し合って、私達は配信の準備を進めていった。

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