【第二十七話】つながり

 ツイナの先導で先を進むスレイン達だったが、それでも戦いはないわけではない。散発的に襲ってくる妖魔に対して、スレインは休む間もなく剣を繰り出し、エルーシャとツイナを守って戦う。そんな状態が続くから、自然、スレインの全身は軽い傷に覆われていく。

「スレイン、僕のことはいい。ツイナを……!」

「いいえ、エルーシャさんこそ休むべきです。わたしが何とか、食い止めてみます」

 二人のそんな声が聞こえて来たのは、出口が近い間道のことだった。

「心配はいらない。これくらいなら今までだって……」

 言いながらも、スレインの息は上がって行く。軽いとはいえ傷だ。体力はそれに比例して、少しずつではあるが落ちて行った。だがスレインは、それを見せない剣さばきで、周りの妖魔を倒していく。

 スレインの剣が鈍ってきているのを、エルーシャは見ていて解った。水の術で援護しながら、それでも徐々に効力は落ちていく。

「ツイナ、君が何を考えているのか、僕には解らない。だけどスレインが聖剣士だというなら、君は誓約しているんだ。僕の力では打撃を与えるだけ。弱点にはならない。君の火の力なら……」

 スレインに守られながらでも、エルーシャはツイナを見た。誓約は、村の名前にも使われる、天族にとって唯一無二のもの。だからこそ、人生をかけるのだから。

「スレイン、大丈夫か?」

 そのはっきりとした声が聞こえたのは、それから戦闘を終えて、スレインが剣を鞘に戻した時だった。

「ナディア? 何でここに来たんだ? ここは危ない」

「どこがだ?」

 そうか。ナディアには見えないのだ。妖魔はまだ徘徊している。だが天華能力を持たないナディアには、妖魔が見えない。

「こっちだ。この遺跡ならわたしも、少しは知っている」

「スレインさん!」

 ナディアが身を翻した瞬間、スレインは駆け出し、彼女の身体を抱えて横に跳んだ。その時、背中を一文字に切られる。

 ナディアは体を起こして、スレインの傷を見た。

「スレイン? いったい何が……?」

「君だけでも外に出るんだ。ここは……危ない……エル、行けるか?」

「むろんだ」

 息も絶え絶えの声に、エルーシャは癒しの術を放って、スレインのケガを何とか、動けるまでにする。

「リズローシズスレイ」

 スレインが高らかにその名を叫ぶと、スレインの見た目が変わる。青いロングコートを着た、聖剣士と伝えられるその姿に。その槍が実体化し、スレインの手に握られる。

 ナディアは何が起こっているのか、まるで解らなかった。天華能力を持たないから、彼女には聖剣士の姿を捉えることができない。彼女に見えるのは、普段のスレインの姿だけだ。

「ナディア、下がって。ここは俺じゃないと何とかできないから」

「スレイン? いったい何が……?」

 解らないのも無理はない。

 ナディアは知らない。スレインが何者かか。スレインとはクレストの村で出会い、そのままを受け入れた。友だと思った。確かに何か近いものを感じなかった、というわけではない。それほど王族は数が多くないのだ。

 現在は幼王が国を治めているが、ほぼ傀儡だといっていい。大臣たちの専横が続いている。伯父夫婦はもうなくなった。ナディアの父の兄だ。本来なら彼が、国王のはずである。

「とにかくここから出ないと。ツイナ、近い道はあるか?」

「あ、はい」

 あちこちの灯籠に火をともしながら、それでもツイナは出口を知りながら、大回りさせてきたという言い方が、できなくもない。

「ナディア、ついてきて」

 ツイナの先導にしたがって、スレインは弓を弾きながら、ナディアの前に立って走り始めた。あれほどの深手、本来なら走ることはできない。

 ナディアが階段を上がると、スレインはその背後を見やって、神威を解いた。

「何とか、帰ってこれた、か」

「大丈夫か? スレイン。僕の力では、完全な治癒が出来なかった」

「仕方ないさ。さぁ、遺跡を出よう」

 エルーシャに頷いて、スレインは階段を登り切り、扉を出てから天を仰ぐ。扉をくぐると、そこはもう遺跡の外、祠が建っていた。

「あの場所はいったい……?」

「聖剣士を祀る遺跡です。すでに数千年も前に作られた遺跡でした」

「そこで俺は過去を知る。そして未来を見据える、か。ぞっとしない話だな」

「そうですね」

 ツイナはとうとう、遺跡内部で真名を告げることが出来なかった。

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