【第二十四話】火の遺跡

 エルーシャ、ツイナとともに、スレインは遺跡の奥に向かおうとした。聖堂があったり、火の遺跡があるここはきっと、聖火に守られた土地だったのだろう。スレインは少なくともそう思った。

「僕の力と相反するみたいだな」

 ふとエルーシャがそう言う。スレインは手をかざして、何も起きないことを確かめた。今ではエルーシャの力は、半分以上、スレインになじんできている。すぐに神威を発動したからだろう。

 ふつうは早くても、三日以上はかかる。発動後もすぐに動けるとは限らない。人間の身体に、天族、精霊族の力は強すぎるのだ。

「ツイナ、この先に行くには?」

「聖火の力を得なければなりません。スレインさんがわたしの力を受け入れない限り、ここからは出れません」

「そんな!」

「エル、大丈夫。俺はどんな試練も乗り越える。そう決めたんだ、お前の力を手に入れた時から」

「――スレイン……」

 幼馴染の覚悟を知って、エルーシャは目元がにじんできた。かつてこんな聖剣士がいただろうか。彼はそう思う。

 伝説に詠う聖剣士は、こんなものではなかった。聖堂に仕える聖剣士が、天族の力を手にして、世界にはびこる妖魔を倒す。それだけだった。

「スレイン!」

 エルーシャの厳しい声に、スレインはとっさに左腰から剣を抜いた。扉が破られる。そのひび割れを、エルーシャは見たのだ。

 跳び退ったスレインは、袈裟懸けに振り下ろされた鎌を、剣で受け止めた。そのまま振り払う。その勢いのまま、返す剣で切り裂いた。

「ツイナ、これは?」

「初めてみました。どういう妖魔が現れたのか……」

「暢気に考えている場合か。スレイン、僕はここでは力が反発する」

 困った事態になった。エルーシャの力は水。スレインは今や、水の力の半分を己のものとした。だが火の力はほんの一部。それも燭台をともす程度だろう。それでもなくてはならないが、ろうそくに火をともすに等しい。

「スレインさん、あなたの力を信じてください」

「そうは言っても、俺が使える火の力は、そんなに強くない。解るんだ。先にエルとの誓約をしたせいか、ほとんど体に力が入らない」

 スレインも実感していた。それでもなくてはならない、力。ここを抜ける力。

「エル、灯りをともせるか?」

「僕の力じゃ無理だ。ツイナじゃないと……」

 二人がツイナを見る。彼女は火の天族だ。火の精霊は彼女の保護の元、力を得ることができる。だがツイナがまだ、スレインと誓約していないことは、二人とも知っていた。だからこそ、彼女の力が必要だった。

「やむをえません。スレインさん、手をかざしてください」

 スレインがそっと左手を差し出す。そこに聖なる力が集った。

「これは?」

「火の浄化の力。エルーシャさんの水の力と対をなすものです。それに意識を集中してください」

 エルーシャの力は、水の浄化の力だ。突き詰めて言えば、一種だけの力でも、かなり強大である。大体の妖魔は祓ってしまえるだろう。

 スレインは一切の感情を捨て、身を切るような痛みに耐える。それが意識を集中することだと、スレインは水の長老から言い聞かされてきた。その間はツイナとエルーシャで、スレインを守る。守ることしかできなかった。

 次の瞬間。信じられないことが起きた。スレインはツイナの真名を知らない。それでもその身からあふれたのは、聖なる火の力だった。爆発的に気配が強くなる。

「行くぞ!」

「はい」

「ああ」

 二人がスレインに続いた。

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