【第二十三話】遺跡の聖剣

 スレインとエルーシャ、それにツイナが加わって、ナディアの案内の元、遺跡に入ることになった。聖剣祭というものがあるからには、聖剣が祀られていると思っていた二人にとって、聖堂に飾られていた聖剣は、神器ではなかったからだ。

「ここが遺跡につながる入口……」

「大丈夫か? スレイン」

「ああ。ナディア、ありがとう。ここからは俺だけで行くよ」

 案内してくれたナディアは、妖魔が見えない。天華能力が限りなく低いからだ。それに比べてスレインは、妖魔も天族も普通に存在する。

「だが君だけでは……」

「大丈夫。俺、聖剣士になるからさ。ほんとは立ち会ってもらいたいけど、ナディアには危険だから」

 遺跡は妖魔の巣窟と言っていい。世界のゆがんだ感情が生み出す、妖。それが妖魔だ。

「――解った。無事を祈っているよ」

「ああ。行ってくる」

 ナディアに見送られ、三人は遺跡の前に立った。スレインが扉を開くと、遺跡に特有の感覚が、その身に入って来た。

「こちらです」

 ツイナが先に立って案内する。この辺りには妖魔はいなかった。

「エル、おかしいと思わないか?」

「ああ。この辺に妖魔はいないのか?」

 スレインに頷き、エルーシャが聞くと、ツイナは苦笑した。

「この先にある遺跡では、確かに妖魔はまだいるでしょう。神器の恩恵も、この付近だけにとどまっています。この先に神器があるのです」

 それに二人は顔を見合わせた。

 普段、エルーシャは顕現して、スレインを肩を並べている。いくら誓約したとはいえ、それですべてが決まるわけではないと、エルーシャは実感していた。

 三人で奥に進むと、確かに祭壇に続く通路があった。

 いくつかの角を曲がり、たどり着いた場所には、盛大な火がともっていた。スレインが愕然と進むと、その火が別れて、道を作る。どうやら天族と誓約しているかどうかで、聖剣士という職務が判定されるようだった。

 今スレインの自由になる力は、水だけだ。水気、と言っていいかも知れない。スレインは水として象徴される能力を、エルーシャと誓約することによって操れるようになっている。

 本来はツイナもそうなのだが、彼女は真名を告げていない。だから聖剣士に付き従う天族ではないのだ。

「これは……?」

 眼前に見えてきた祭壇に、一本の剣が刺さっていた。巨大な剣の模造の前、そこにある聖剣は、火を象徴とするかのように、剣身が燃えていた。

「これが火の聖剣エヴァスバ、です。抜いてみてください。スレインさんが真に聖剣士ならば、剣はそれを認めて抜けるはずです」

「解った」

 ツイナに促され、スレインは一人で聖剣と向き合った。その柄に手をかけ、ぐっと力を入れると、肩をゆっくり意識的に動かした。剣が徐々に抜けていく。そしてスレインの右手にそれが収まると、周囲の火が一斉に消えた。

「これは?」

 エルーシャがあたりを見回す。ツイナは頷いて歩を進めた。

「聖剣エヴァスバは、聖剣士によってしか抜けません。そして抜ければ、それだけで聖剣士として認められる。古くからそう言い伝えられています。

 この街は湖の岸辺に、漁村として誕生し、それが人々の手によって栄えてきました。おそらくではありますが、エルーシャさんが誓約できたのも、それが理由でしょう」

 ただそれだけではならない。エルーシャの真名をスレインが知っていること、それも誓約に必要な条件で、さらに言えば、スレインは水の神器を、早くに手に入れていた。だからこそ、エルーシャと誓約できたのだ。

「ここは聖剣士を生み出す祭壇。試しの祭壇と言われています。入り口は一方通行で、入ることはできますが、出ることはできません。奥に進むしかないのです」

「なんか……すごく意地悪だな?」

「そうですね。進まれますか?」

「もちろん。な? エル」

「そうだな。奥に進めば出れるのか?」

「ええ。それはもちろんですが、危険ですよ? この先は聖剣士になれなかったもの達が妖気を吸収し、妖魔となっていますから」

 無念を残した人々は、その気を変じてしまう。それが妖気だった。スレインも理屈は知っていたが、こうして話を聞くと、大変なことだと実感する。

「行こう」

 意を決するように、スレインは出口を探して、聖剣の祭壇を後にした。

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