【第十七話】街の様子

 スレインとエルーシャは、湖にかかった橋に足を踏み入れた。遠くから見ている限りでは、それほど大きな橋だとは思えなかったが、近くに来ると、その威容が解る。

「エル、人間ってこんな橋を作れるんだな?」

「そうだね。僕も驚いたよ。それはそうとスレイン、僕にあまり話しかけないほうがいい」

「え? 何で?」

「スレインのように、天華能力を持っている人間のほうが、実は少ないからさ。昔はみんな持っていたらしいけど、じいじの話だしな」

 エルーシャの言葉に、スレインも頷いた。

 石畳の橋を超えると、街の入り口についた。

「グラスフォードの街、か」

 スレインはその威容を見上げて、感嘆の息をついた。門前では兵士が、入場者の名簿を作っている。

「すみません、街に入りたいんですけど?」

 スレインがその兵士に声をかけると、ファイルを持った兵士は、何かを羊皮紙に書いていった。

 人間の街では製紙が回り切っていないのだろう。ほとんどが羊皮紙だと、それも長老からの情報だった。スレインが人間だということを差し引いても、天族達は連絡を取り合っている。秘かに、だが。

「結界を感じない」

 入場を許可されたスレインが門をくぐると、それについてきたエルーシャも頷く。

 結界がないということは、天族の加護がないということだ。精霊達も弱り切っているらしく、スレインの目には、陰に潜む精霊が見えた。ほとんどが闇属性。光属性や、火属性と言った、主な精霊の姿は見えない。

「どうした?」

「何だろう? 胸が苦しい」

 エルーシャが立ち止まったスレインに聞くと、彼は胸を押さえて答えた。エルーシャも周りを見回す。

 闇属性の精霊が多いせいか、四大天族の姿は見えない。火、水、風、地の四大属性に属する天族は、主に使う力が限定される。そして得意な武器も違ってくるのだ。

 ここまで妖魔に襲われなかったから、それほど深刻ではないと思っていたが、街の中のほうがきな臭い。

「ナディアを捜すかい?」

「そうだな。でもこの息苦しさ、なんだろう?」

「おそらく風が滞っているんだ。ほとんどの自然が、停滞しているんだろうな」

 この辺はエルーシャのほうがよく知っている。だから頷ける言葉だった。

「風がないな。風の天族を捜す?」

「それはやめたほうがいい。街の入り口で聞いたけど、今日から聖剣祭だそうだ」

「つまりナディアがいる可能性も高い?」

「そう言うこと」

 エルーシャが頷くと、スレインは周りを見回した。人の姿もあるが、活気はない。せっかくの祭りだというのに、どの人間の顔も、笑顔はほとんど見られなかった。

「じいじが言ってた。人間の街に行ったら、まずは宿屋を探せって」

「スレイン、あそこ」

 エルーシャが指さすと、そこには荘厳な建物があった。そしてその傍らには。

「ナディア?」

「行ってみよう」

 スレインが驚いて顔を上げると、エルーシャが促した。二人は速足で、助けた少女の元に急ぐ。

 いやな気配がした。まるで何者かが、彼女に対して殺気を持っているような、そんな感じがしたのだ。薄青い炎が上がった。

「危ない!」

「スレイン?」

 スレインが大声で注意を促すと、彼しか見えていない少女が、首を傾げて振り返った。

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