【第十一話】準備

 夜の間に必要なものをピックアップしたスレインは、朝起きてからも迷わなかった。まずは薪の保管庫に行き、薪を一抱え持って帰ってくる。それをかまどに入れて、火を熾す準備をした。それから地下の冷蔵室に行き、保管してあったほし魚と、野菜、肉を均等に取ってくる。

 後はバッグを作るための道具を出して、準備は完了だ。奥の寝室ではまだ少女が寝ている。それを確認して、スレインはもう一度外に出た。今度は天気を確認するためだ。

「よく晴れたなぁ」

 空を見上げて、明けの空を見つめる。スレインはこの時間が一番好きだった。

「スレイン、おはよう」

「おはよう、エル。どこか行くのか?」

 準備を整えていたエルーシャを見て、スレインが首をひねった。相変わらずだと思う。厄介ごとを抱え込んだ、とはスレインは考えない。助けたからには面倒を見る。彼の中でそれはイコールなのだ。

「じいじにいろいろ仰せつかってね。しばらくは忙しいよ」

「そうか。俺のせい、だよな?」

「そうとも限らないけどね」

「エルーシャ、急げよ!」

「ああ、解ってるよ。スレイン、言うまでもないことだと思うが……」

「うん、彼女のことは俺に任せて行って来いよ」

「手伝えなくて済まない」

 そう言ってエルーシャは駆けて行った。

 スレインはひとしきり景色を楽しんだ後、家の中に入った。

 彼らは独り立ちすると、それぞれに家を与えられる。スレインも二年前、この家を与えられて、一人で生活している。そういうわけで、朝の支度も慣れたものだ。

「すまない。君にすべてを任せてしまった」

 少女が起きて来たのは、その頃だった。スレインが視線を向けてから、首を横に振った。

「きれいに空は晴れてたから、狩りには絶好の日だな。雨が降ってるときついんだ、これが」

「そうなのか?」

「ああ。俺は経験者だからな」

 少女に頷いて、干し魚を焼くと、皿に盛り付ける。それからさっと肉と野菜を炒め、さらにサラダを作る。この辺は手慣れたものだが、普段はここまで手間をかけない。

「こんなもんだろ。ごめん、運ぶの手伝ってくれるか?」

「ああ、そのくらいなら」

 少女もあっさりと頷いた。食卓などないから、床にじかに食器を置く。

「すごいな? わたしは料理など出来ないんだ」

「慣れだね、これも。俺、普段はこんなに作らないから」

 少女がいるから、手間をかけたのだ。それから食事をとって、二人して家の外に出る。

「確かにいい天気だ。それでどこに行くのだ?」

「村の入り口から左手に遺跡がある森がある。そこにいる小型のボアがいるんだ。そのボアの皮とか肉とか、いい素材になるんだ」

「皮は解るが、肉とは?」

「干し肉にすると、いい保存食になるんだよ。ほら、行こう」

「あ、ああ」

 スレインに促され、少女は一緒に歩きだした。この後の危険を知らずに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る