【第八話】人の国と歴史
二人が橋を渡ると、スレインは橋を振り返った。
「こんなすごい仕掛け、俺初めて見たよ」
「僕もだね。ただ、この遺跡は人間が作ったものじゃないと思う。少なくとも、この橋は違う。僕達のような者に力を借りた。それが本当じゃないかな?」
「そうだとしたら、この遺跡は少なくとも、神代の時代のもの、……ってことか?」
「さぁね。でもそう考えなければ、話のつじつまは合わないね」
そういいながらエルーシャの注意は、倒れている人間に向いていた。傍に剣と槍が落ちている。
それは彼の想像を超えてはいない。だが、認めたくはなかった。この山は彼ら水の天族が隠れ住んでいるのだから。
「スレイン、やっぱりやめよう」
だがスレインは聞かない。その人間は女性で、見るからにまだ少女だった。剣と槍を持っていることから、彼も気づいているはずなのだが、何も言わずに少女の肩をゆする。
うめき声をあげて、少女は目を開けた。スレインを見てはっとなる。体を起こしながら傍をまさぐった。
「探してるのはこれ?」
「え?」
「はい。立派だね。倒れてても近くにあったよ」
「そ……そうか。済まない」
申し訳なさそうに、彼女は体を起こして立ち上がった。それを見て、スレインも立ち上がる。
「ケガはなさそうだね? どこから来たの?」
スレインの問いに、少女は答えない。スレインも深くは問おうとしなかった。武器を手にして彼女は、少し安心したようだ。
「ありがとう。君は?」
「え? ああ、俺はこの遺跡に潜ってたんだ。これから村に帰るとこ。一緒に来る?」
この問いには、さすがにエルーシャが顔をしかめたが、幼馴染は何も言わない。彼は少女の答えを待っている。
「いいのだろうか? わたしは道に迷って、ここに迷い込んだだけなのだが……?」
「困ってる人を見過ごせないよ。俺の家に来るといい。一人暮らしだから、そんなにもてなせるわけじゃないけど……」
「すまない。世話になる」
「じゃ、帰るか。えっと……」
方角的に確認するために、スレインはポケットから磁石を出した。この山は水源としてだけではなく、鉱脈もあるから、磁石で方角を確認できる。
「こっちか」
「解るのか? それで」
「俺は慣れてるからね。ついてきて」
少女の先に立って歩きだす。
「君は騎士だよね?」
「ああ、グラスフォードの青騎士団に所属している」
スレインは足を緩めなかったが、グラスフォードと聞いて眉をしかめた。この大陸を二分する大国だったからだ。
スレイン自身も、北の大陸の出ではないか、と大人達は話していた。もしくは、この大陸の北か。どちらにせよ、スレインの肌は少し濃い色だし、髪もこげ茶だ。南に位置するグラスフォード王国には、めったにない特徴だった。
「俺さ、北の出じゃないかって言われてるんだ」
「何故だ? 君の特徴は、南国に見えるぞ?」
「そうかな?」
「ああ、北国の者は色が薄いのが特徴だ。だが君の特徴は違うだろう?」
「そう言えば……そう……かな?」
スレインにとって、出身国は関係ない。ただ大人達がそう話していた。それだけの認識だったのだが、どうやら違ったらしい。
ただ困ったことに、この少女を家に連れて行くとなると、報告が欠かせなくなる。そして村の掟も破ったことになる。エルーシャがしかめっ面でついてきているのは、それが理由だ。
遺跡を出ると、蒼穹の空が見えた。その先にある、石造りの家が並ぶ、小さな村も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます