【第七話】妖魔

 妖魔とは、人間が魔物として恐れ、人を食らう化け物のことである。いずこからか現れ、人を食らう化け物。それを総じて妖魔と呼ぶ。

 スレインの剣が、袈裟斬りに一閃される。続いて下方からの斬り上げ。その動きは、やはりよどみない。

 その間にエルーシャが魔法を唱える。棒術を鍛えたエルーシャは、実戦で怯むことこそないが、魔術師としても才能があった。ただいかんせん、その実力はまだ初級の段階だ。これから実戦を重ねて行けば、それなりの実力がつくだろうが、天族の村は平和で戦いに明け暮れるわけではない。

 それでもこうした探検には、危険はつきものだ。彼ら二人は、互いに得意とする武器で、武技を磨いてきた。

 スレインが剣を振りぬくと、雲は煙となって消えた。

「今の、妖魔か?」

「おそらくね。けど、今まで逢った妖魔より、格段に強かった。スレイン、早くこの遺跡を出たほうがいい」

「あの人間のほうが先だ」

 スレインの言葉に、エルーシャはため息を吐いた。さすがにお人よしとは思ってしまうが、それでも同族を見捨てるなど、彼にもできない。同じ天族なら、エルーシャも助けに行っただろうから。

「解った。とにかく急ごう。もう数階あるみたいだから、何かヒントが見つかるかもね」

「そうだな」

 エルーシャに頷き、スレインは奥に進んだ。


 階段を上ること二階、スレインは崩れた廊下を見た。さすがに渡れない。下りの階段を見つけることも、対岸に渡る方法も解らない。

「あれ?」

 回廊の端まで行くと、不自然な何かに気づく。だがそれが像をなすことはなかった。

「スレイン? 渡れない、かな?」

「あ……ああ、ちょっと無理そうだ。向こう側に倒れてるんだから、渡る方法があるはずなんだけどな」

 幼馴染に訊かれて、スレインは狼狽えながらも頷いた。何に引っかかったのか、自分でも解らない。ただ、何か不自然だった。

「……スレイン、ちょっと僕に思いついたことがある。下に降りてみよう」

「あ? ああ、そう……だな……」

 頷いてから、心をそこに残しながら、スレインは再び階段を下りた。

 エルーシャが行ったのは、崩れた広間だった。いや、そこだけが整理された広間だ。神殿を形作っている石は、そこで綺麗に堀を作るように、向こう側とこっち側に分かれていた。

「ああ、やっぱり」

「エル? どうした?」

 一人納得したように頷いたエルーシャに、スレインが不思議そうに訊く。エルーシャが訳ありに微笑む。こういう時は、この幼馴染は何を言っても、種を明かそうとはしない。

「行くよ」

「え? だから何だよ?」

 半分ひねった状態で、エルーシャは右手に冷気を集めた。いや、正確には水気か。それを急激に冷やし、身体を元に戻す反動で解き放つ。

 すると、何もなかった場所に、氷の橋が生まれた。

「これは……!」

「見えない透明な橋だよ。それがこの広間の中心にかかってたんだ。スレインが見たのは、その天華能力で、この橋だろうね」

「ありかよ」

 エルーシャの言葉に、スレインは半分、頭を抱えた。そして対岸を見る。

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