【第二話】遺跡で

 少年は周りを見ながら、圧巻とした回廊を進んでいる。その歩みは、天に生きるとされる天族の代表、天使を思わせた。

「すごいなぁ。こんな遺跡があったなんて……」

 独り言を呟く。彼にとっては、遺跡は見るものが多い。壁画やその壁の精緻に至るまで、すべてが素晴らしく感じる。四大天族を統べていたとされる天使がすむ宮殿。それに勝るとも劣らないだろう、巨大な遺跡に今、彼は来ていた。

「うわぁ、この壁。どうやって掘ったんだ?」

 それは精緻な施しがされた壁の一面だった。彼の高揚した頬は、健康的な色だ。肌は若干焼けているのか、少し濃いめだが、それでも肌の色は薄い。はねた焦げ茶色の髪は、やはり健康的に短い。そして濃く太い眉、森の緑を思わせる翆玉の瞳。身長はそれほど低いとも、高いとも思われない。どちらかと言えば、普通の人間ならば、標準体型だろう。

 その翆玉の瞳が、ある壁画を見つけて輝いた。

「これって……もしかして……」

 それは村の長老から教えられた歴史。人間よりはるかに長寿の長老は、伝説にも詳しかった。

 彼らが今生きるこの時代、暦は天恍暦という。今は天恍暦二千八百二十六年四月。この山にはまだ雪が残っている。四月と言っても、風が暖かくなって来た、という程度の違いだ。

 だが何故か村の大人達は、少年に暦を語って聞かせる。それが理由か、少年もそれが当たり前だと思って来たのだが。

「もしかしてこれが……じいじの言ってた聖剣士?」

 それは過去、災厄が訪れると、いずこからともなく現れ、世に光明をもたらしたといわれる英雄の物語だ。

 もっともここ数百年、聖剣士は現れていないという。聖剣士が現れたなら、世界中に散らばる仲間達から連絡があるからと。その試練に打ち勝ち、彼らとともに生きることを誓うからと。

 それがどういうことなのか、少年には解らなかった。彼は天族の中で生きて来たからだ。世界中に散らばる天族の同朋達が何を望み、何を願っているのか、彼は知らされていない。

「スレイン? どうした?」

「あ、これ見てくれよ」

「すごいな。どうやって見つけたんだ?」

 幼馴染の言葉に、スレインと呼ばれた少年は、屈託ない笑みを浮かべた。

「歩いてたら見つけたんだ。すごい偶然だよ」

「確かにね。スレインらしくないよな、計画して見つけるなんてさ」

 そう言われると、ちょっとムッとする。

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