第22話

「社長っ!ホントに信じてください!私、みんなにいじめられたんです!」

「でもなあ。みんな、そんなことはないって言ってるんだ」


次の日、お千代さんが牧場主さんの周りを何度もクルクル回りながら、私たちに言葉の暴力を受けたと訴えていました。


「あの時、山田はモー太郎とシープと一緒に園内のゴミ拾いしていたって言うし、花子はシャワー浴びて、きいちゃんは自分の部屋で寝ていたって言ってるんだ」

「ローバさんとチッタさんは?」

「あの2匹は、俺と一緒にいた。お前も知ってるだろ?」

「そ、そんな・・・」


お千代さんの動きが止まりました。


「昨日、俺は、赤の坂公園に行って、来週やるイベントの打ち合わせをしていた。先方が、出演する動物を見たいというから、メリーに頼んで5時にローバとチッタを連れてきてもらったんだ。お前がいじめられたと言ったのは、5時だろ?その時間に、あの2匹がここにいたはずがないだろう?」

「でも、でも・・・」


お千代さんの声がだんだん小さくなりました。


「夢だよ、夢。お前、疲れているんじゃないか?獣医の先生に診てもらうか?」

「疲れてなんかいません。みんなが、嘘ついているんです」

「仮に、山田たちが嘘ついていたとしても、お前に説教したという、ローバやチッタはどう説明するんだ?俺と一緒に7時に帰ってきたんだぞ。そしたら、お前があんなところで寝てて」

「お説教じゃありません。暴言です」

「それにお前、昨日、あの俳優が来てたって言ってたけど、誰も見てないってさ。もう、よっちゃんは辞めてるんだから、あいつがお忍びで来るはずないだろ?第一、営業時間が終わってからは、客はここに入って来れないんだ」

「従業員専用のドアから入ったかもしれないじゃないですか?」

「あのドアは、お前がセキュリティに問題があるって言うから、暗証番号を入れて開くものに変えたんだ。従業員以外の人間があのドアから入ることはない」

「事前に、よっちゃんから聞いていたのかも」

「よっちゃんが辞めた後に、暗証番号は変えた」

「わかった!山田さんが、あの男を入れたのよ!」

「何のために?」

「え、えーと・・・それは・・・。じゃあ、柵を乗り越えて侵入したとか?」

「それも、お前が防犯対策しろと言うから、柵を越えて侵入した人がいたら、ブザーが鳴って警備員が来るようにシステムを変えたんだ。一流動物園並みにな」

「でも、本当に」

「夢だよ、夢。お前、夢見てたんだよ」


お千代さんはプイと横を向くと、自分の部屋に戻っていきました。

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